コラム・週刊Blessed Life 307
ローマ教皇がウクライナへ提言!

新海 一朗

 ウクライナ戦争が先行きを見ることのできない泥沼状態にある現在。
 3月9日、ローマ・カトリックのフランシスコ教皇がスイスのラジオ局RTSとのインタビューで、ウクライナはロシアとの戦争の終結に向けて「白旗を揚げる勇気」を持つべきだと発言しました。
 つまり、ロシアに降伏せよ、と進言したわけです。

 これに対して、早速、ウクライナ政府は反応しました。
 ウクライナのクレバ外相は、10日、ソーシャルメディアに次のように投稿しました。

 「われわれの旗は黄色と青だ。この旗の下にわれわれは暮らし、死に、勝利を収めている。決して他の旗を掲げることはない」

 さらに、ラトビアのリンケービッチ大統領も、「悪を前にして降伏してはならない。悪と戦い、悪を打ち負かし、悪が白旗を揚げて降伏するようにしなければならない」と、X(旧ツイッター)に投稿しました。

 教皇の真意がどこにあるのか分かりません。ウクライナが頑張ったとしても、大国ロシアに勝利する可能性は薄いと見て、これ以上、戦争犠牲者を増やしてはならないと忠告したかったのかもしれません。
 また、ウクライナを支援する欧米の体力が限界を迎えていると判断しているのかもしれません。

 「ロシア=悪」という考えで足並みをそろえてきた欧米(日本も含め)の論調が、ロシアたたき一辺倒でウクライナを支えてきた中、フランスの人類学者エマニュエル・トッドは、少し違った見方をロシアとウクライナの戦争に対して示しています。

 トッドは、1976年に出版された『最後の転落』の中で、その当時、誰も信じていなかったソ連の崩壊を大胆に予言し、その根拠も著書の中で示しながら、1991年に現実のものとなったソ連崩壊を見事に的中させました。

 以後、彼の発言はしばしば世界の注目を浴びるようになりました。
 トッドは、2024111日に『西洋の敗北』という衝撃的な著書を出しています。

 ウクライナ戦争は継続中ですが、現在、ウクライナの勝利もあり得るといった幻想を抱く西洋諸国は少なくなりつつあります。
 2023年の夏の反転攻勢が失敗に終わり、米国をはじめとするNATO(北大西洋条約機構)諸国がウクライナに十分な量の兵器を供給できていなかった事態が露呈しました。

 この戦争で分かったことは、米国の国力の劣弱さです。
 米国の産業力の衰退の原因をトッドは、1965年以降の米国でのエンジニア育成の不十分さ、全般的な教育水準の低下にあると言います。

 さらに、米国での健全なプロテスタント文化の消失の事実を指摘します。
 プロテスタント文化が崩れ、それによって知的水準が下がり、勤勉な労働意欲が消え、代わりに大衆が欲深さをあらわにしている状況に陥っていると言うのです。

 トッドはロシアの蛮行(ウクライナへの侵攻)を受け入れ難いとしていますが、一方で、プーチン大統領をこの戦争へと追い詰めたのは、米国とNATO(西側諸国)の傲慢(ごうまん)さだと言います。

 1990年、米国のベーカー国務長官がゴルバチョフ書記長に保証した「NATOを東方へ1インチたりとも拡大しない」という約束を破り、その後、二度もNATOは図々しく東方へ拡大した、このような東方拡大をやめて、ウクライナを中立化するというロシアの要請を受け入れていれば、この戦争は避けられたと言うのです。

 米国とNATOの傲慢さが、まさしくウクライナ戦争の根源にある原因であるとトッドは見ています。
 その結果、「西洋の敗北」へ突き進んでいる悲しい現実があるという見方を主張しています。

 こういう見解を受け入れ難いとするか、一理あるとするかは、人それぞれです。
 しかしロシアをなめた欧米の傲慢さが、西洋の敗北という思いがけない結果を招いたとすれば、ロシアを戦争へと追い詰めた欧米の責任は甚大であると言わざるを得ないでしょう。