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ダーウィニズムを超えて 46

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
 生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
 そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。

統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著

(光言社・刊『ダーウィニズムを超えて科学の統一をめざして』〈2018520日初版発行〉より)

五章 心と脳に関する新しい見解

 新しいミレニアムを迎えて、科学はいろいろな面で困難な問題に直面し、その解決を迫られている。その中の一つが心と脳の問題である。すなわち心は脳から生じたものか、あるいは脳を超えたものなのかという問題である。それは意識とは何かという問題でもある。そして認識はいかになされるか、という問題とも密接に関係している。そこで、これらの問題に対して現代の科学者の見解を踏まえつつ、統一思想の立場から新たな方向性を提示する。

(一)心と脳の関係

 心と脳の関係をいかに見るか、次のような四つの見解に分かれる。

①真に存在するのは神または宇宙的な精神であって、人間の心はその一部分であり物質的な事物は二次的な存在にすぎないという唯心論または観念論

②物質的な脳だけが実在であり、心は脳の産物または機能であるという唯物論

③心と脳は別のものであり、両者は分離することができるという二元論

④心と脳は一つになっていて、分離することができないという一元論

 以上の見解に関して、心と脳の関係に関する今日までの科学者たちのいくつかの見解を紹介しながら、統一思想の立場を示す。

1)デカルト
 現代科学の心と脳の論争の原点となったのはデカルト(R. Descartes, 15961650)である。デカルトは、心を探求するのに、物質の場合と同様に、科学的方法を用いようとした。つまり、心の存在を啓示された教義としてではなく、明らかに観察できる事実として扱った。デカルトは、精神は全く物質的な要素をもたない、思惟を本性とする実体であり、物体は全く心的な性質をもたない、ただ延長だけを本性とする実体であるとした。すなわち、心は心であり、脳は脳であるという、心身分離的な二元論の立場であった。彼は脳の中にある松果腺(しょうかせん/松果体)を、心と身体の接触点であると考えた。

2)精神分析学者
 心理学的に人間の心に鋭いメスを加えたのはジクムント・フロイト(Sigmund Freud, 18561939)である。彼は脳のいかなる機構とも関係なく、精神過程のみを分析し、精神分析理論を生みだした。フロイトによれば、心の装置は次の三つの層からできている。

①無意識(イドまたはエス)

②自我(エゴ)

③超自我

 無意識のイド(id)——エス(Es)ともいう——は心の中の根源的なところであり、動物的、本能的な衝動の宿るところであって、リビドー(libido)と呼ぶ性的エネルギーの巨大な貯蔵庫であるという。自我(エゴ)はイドに対立しながら、イドのエネルギーを制御する機能であって、理性とか分別に相当するものである。超自我は道徳的な裁判官の役割をするものであり、良心に相当するものである。

 スイスの精神科医で心理学者でもあったカール・ユング(Carl G. Jung, 18751961)は、フロイトのリビドー(性的エネルギー)の概念を広げて、性的なものに限らず、広く精神的なエネルギーであるとした。彼は、心には、人類の過去からのすべてのことに由来する共通な集団的無意識があるとして、人間の潜在的な性向や隠された恐怖や欲望は、すべて集団的無意識から生じるものだと主張した。彼はフロイトの無神論に対して、心の背後にある第一原因としての神を認めた。

3)パブロフと行動主義心理学
 フロイトとは反対に、脳の働きにのみ関心をもったのがロシアのイワン・パブロフ(Ivan Pavlov, 18491936)であった。彼はイヌの消化に関する研究から、条件反射(conditioned reflexes)を発見した。イヌの脳の中で、進行している興奮と抑制という過程を、唯物論的用語を用いて推測した。その結果、すべての行動は、条件反射の混合物であり、意識は追放されることになった。彼は、科学というものを、客観的なものであり、測定可能なものだけを認める唯物論的世界観を基礎にすべきであると考えた。

 パブロフの伝統に従ったのが「行動主義」(behaviorism)の心理学である。ジョン・ワトソン(John Watson, 18781958)とその弟子たちは、心理学から霊魂を排除するための方法を、条件反射の中に見いだし、その方法を「行動主義」と名づけた。心そのものを科学的に研究することはできない。科学的に研究しうるものはただ一つ行動だけである。もし十分に詳しく行動を観察するならば、われわれは心についてすべてのことを知ることができるというのが彼の主張であった。

 新行動主義者のスキナー(B. F. Skinner, 190490)は、行動をたくさんの小さな構成要素に分析して、それぞれを系統的に強化するという考えに従い、新しい分野を開拓した。「私たちは、心と呼ばれる脳の複製を作り出す必要はない。……行動主義者は意識を無視するのではない。人が意識をもつことを示すといわれる事実を、別の方法で取り扱うにすぎない。こうした事実を説明するにあたって、行動主義は、一生の間に一人の人間に起こったことを重視する(*1)」というのが、彼の主張であった。

4)還元論者
 心を脳に還元し、唯物論的に説明しようとする、現代の還元論的唯物論の代表的な生化学者がジェラルド・エーデルマン(Gerald M. Edelman)である。エーデルマンの主張は、心は神経細胞の群れから生じたということである。さらに「神経系の反応パターンは環境との相互作用を通して淘汰(とうた)されてきたものである(*2)」というように、進化論の立場に立つものである。そして「頭の中にはノー・プログラマー、ノー・ホムンクルス(*3)」といって、脳を超える心的な存在を強く否定した。

 ホムンクルス(homunculus)とは、脳の中の情報を処理する小人のことであって、ホムンクルスを仮定すると、さらにホムンクルスが受けた情報を処理するホムンクルスのホムンクルスが必要になるといって、心的な存在を否定するために、唯物論者がもち出すものである。

 ジェームズ・ワトソン(James Watson)とともにDNAの分子構造を解明したフランシス・クリック(Francis Crick)も「神経科学の世界では……精神のあらゆる側面は、相互に作用し合う大規模なニューロン集団のしわざとして、唯物論的に説明できるのではないかという考えが大勢を占めている(*4)」と述べて、還元論的唯物論の立場を明らかにしている。


*1 ニジェル・コールダー、中村嘉男訳『危機に立つ心』みすず書房、1973年、421頁。
*2 ジェラルド・エーデルマン、金子隆芳訳『脳から心へ』新曜社、1999年、280頁。
*3 同上、280頁。
*4 リタ・カーター、藤井留美訳『脳と心の地形図』原書房、1999年、298頁。

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 次回は、「心と脳の関係②」をお届けします。


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