夫婦愛を育む 29
行動の心理的背景を知る

ナビゲーター:橘 幸世

 下の子ができたことによる上の子の赤ちゃん返りや、かわいさ故に兄が妹をわざといじめたりからかったりすることは、一般によく知られています。
 どうしてそうするのか分かっていれば、一見マイナスの行動に対しても落ち着いて対処できます。

 けれど残念ながら、大人同士・あるいは男女間のやりとりにおいては、どうしてそんな態度を取るのか理解できず、関係に負の影響を及ぼしてしまうことは珍しくありません。

 自殺の高リスク者たちを支援する際の心得をまとめた手引が、自殺予防に取り組んできた精神科医らによってまとめられた、との記事が新聞に載っていました。

 そこには、要支援者の不可解な行動とその背後にある心理を知らなければ、うまく対処できない、とありました。

 例えば、子供の頃から繰り返し暴力などの虐待を受けたり、生活困窮が長期にわたったりして、まさに支援を必要としているはずの人が、支援者に対して攻撃的な態度を取ったり、途中で連絡が取れなくなったりすることがあるそうです。

 危機的状況が続くと、物事に恐怖や不安で対処しがちとなり、「戦うか逃げるか」という行動様式が身に付いてしまいますが、これは、本人がコントロールするのは難しく、わがままや性格の問題ではないとのこと。

 支援者はこうした心理的背景を理解し、さらに本人も知識を共有できれば、建設的な対処法を探る一歩となる、と書いてありました。
 
 助けたい側、助けてほしい側、双方がその思いをうまく通わせ合えない・・・・・・。
 私たちの身近な人との関係でも、程度の差こそあれ、同様のことがあるのではないでしょうか。

 幸せな関係を求めながら、そのすべが分からない、分かっていてもなかなかできない。人間の心はなんと不自由になってしまったのだろうか、と改めて思いました。

 それでも幸せを求めて努力し続ける私たちは、手引にあった支援者のもつべき基本姿勢、“判断を交えない態度”を、心に留めておきたいものです。

 相手を評価したり裁いたりせずにそのまま受け止める、――やはりそれが、人同士が通じ合うための基本なんですね。