愛の知恵袋 27
愛情能力を高めよう

(APTF『真の家庭』137号[3月]より)

松本雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

こんなはずじゃなかった症候群
 「結婚するときは、いい人だと思っていたんですけどね・・・」と、のり子さん(仮名)は顔を曇らせました。彼女は37歳の主婦で、夫と子供2人の4人家族です。結婚して8年になりますが、離婚しようかどうかと迷っていました。3人姉妹の長女として育ったのり子さんは、頭も良く独身時代は会社でも男性顔負けの仕事ぶりで、社内でも目立つ存在だったようです。「30歳前には結婚したい」と考えていた時、友人の紹介で啓太さん(仮名)に出会い、お互いに好感を持って付き合い始めました。

 啓太さんは39歳。有名大学を出て技術系の仕事に就きましたが、会社の空気が合わないという理由でそれまでに何度か転職していました。のり子さんの両親は、「仕事が不安定だ」といって反対しましたが、「愛があるんだから、大丈夫!」と押し切って結婚しました。

 新婚当初はうまくいっていたのですが、お互いの心の中に不満が生じ、些細なことから言い争いになることが増えてきました。子供ができれば夫も変わるだろうと思っていましたが、1人目、2人目と子供を出産するごとに、夫婦関係は良くなるどころか、もっと衝突することが増えて、今はいわゆる”家庭内別居”状態で夫は口もききません。「こんなはずじゃなかったんですが・・・」と途方に暮れた様子でした。

「愛がある」だけではうまくいかない
 このご夫婦の話を聞いて感じたことは、二人とも「愛があるから・・・」と思い込み、結婚後に相手の心を満たしてあげるための努力をほとんどしてこなかったということです。つまり、二人は”愛情努力”という点において極めて乏しく、「愛し下手の夫」と「愛され下手の妻」であったと言えます。このような場合は大概、時間の問題で二人の関係は暗礁に乗り上げてしまいます。

 男女が結婚後、親密な夫婦関係を築いていくには、互いに細やかな愛情伝達の努力を積み重ねていかなければなりません。男性の基本は愛を与える主体的立場ですから、精神的にも肉体的にもふんだんに妻に対して愛情を与える努力をする必要があります。また、女性の基本は夫を引きつける対象的立場ですから、男性が愛したくなるような女性としての魅力をふんだんに発揮しなければなりません。

 結婚前は、お互いに相手の心を捉えるために、男性は愛する努力をし、女性は愛される努力を熱心にします。しかし結婚後は、夫は仕事に追われ、妻は家事と子育てに意識を奪われて、そのような努力を忘れてしまうという傾向があります。

 その結果、妻としては、「少しも優しくしてくれない。親切だった彼はどこへ行ったの?」という不満がつのってきます。また、夫のほうは、「可愛らしく優しかった彼女は、いったいどこへ行ってしまったんだ・・・」と失望し、二人は日に日に冷めていくのです。

男性は「愛する能力」を高めよう
 いくら「私は愛を持っている」と思っていても、それを的確な方法で表現しなければ、相手には伝わりません。結婚生活で成功を収めるために男性に最も必要とされる能力は、”愛情表現能力”であると言えるでしょう。妻に対して常に精神的、肉体的両面において愛情を形にして表現してあげましょう。

 朝の「おはよう」から始まって、明るく優しい言葉をかけてあげ、出張や記念日にはお土産やプレゼントを買ってあげ、経済的には家計の成り立つようにお金を渡してあげ、家事や子育てにもできるだけ協力してあげましょう。また、時には手を取って歩いたり、肩もみしてあげるなどスキンシップをしてあげ、ナイトライフの面でも妻を寂しくさせない配慮をしてあげることです。

 そうすれば、妻は夫の愛情を強く感じ、安心と幸せを感じることができます。そして、そんな夫に対して、おのずと尊敬と思慕の念が深くなっていくでしょう。

女性は「愛される能力」を高めよう
 一方、女性が夫からふんだんな愛情を受けるには、夫を引きつける魅力、即ち「美」を遺憾なく発揮しなければなりません。賢い女性は、結婚しても夫の心をとらえて放さないものです。夫からこよなく愛される妻は「可愛い」のです。これは、顔立ちが美人とか可愛いというだけの意味ではありません。もちろん顔やプロポーションが美しいに越したことはありません。しかし、それよりもっと大事なのは心の「美しさ」「可愛さ」なのです。

 男性の心を引きつけるこの「美しさ」「可愛さ」とは、何でしょうか。夫に対する妻の日常の言葉づかいや態度なのです。傲慢でなく謙遜、雑でなく細やか、出しゃばりでなく控えめ、頑固でなく従順、短気でなく忍耐強いほうが「美しい」。また、強がりより甘えんぼ、堅物よりお茶目さん、きついより柔らかいほうが「可愛い」のです。そういう要素を発揮すれば、夫から限りなく愛され、慈しまれることは間違いありません。

 「私は性格が男性的なんだから無理だわ」と言う方もおられますが、諦めることはありません。性格はすぐには変えられなくても、「愛される技術」として身につけることはできます。これが、女性として「愛される能力」を高めるということになります。

 こうして、二人がそれぞれ”愛情能力”を高めていけば、「愛し上手」と「愛され上手」の夫婦となって、日に日に幸せな家庭になっていくことは間違いありません。