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コラム・週刊Blessed Life 280
今、世界が求めている精神は何か?

新海 一朗

 9月9日、G20(主要20カ国首脳会議)がインドで開幕し、9日、10日の2日間にわたって世界が直面する緊急課題を話し合いました。
 テーマは、「一つの地球、一つの家族、一つの未来(One Earth, One Family, One Future)/Vasudhaiva Kutumbakam(ヴァスダイヴァ・クトゥンバカム)」です。
 「ヴァスダイヴァ・クトゥンバカム」は、「世界は一つの家族」と訳され、インドの古典『マハ・ウパニシャッド』から着想を得たものです。

 この言葉が意味する精神は、全ての生命の重要性と地球上および宇宙全体における相互依存を表しています。
 エネルギー価格の高騰や資源の争奪、食糧安全保障の危機など、現在の世界の状況は、深刻なものとなっていますが、それらの問題を解決する精神が哲学思想の豊かなインドにはあり、そのインドにおけるG20のテーマが「世界は一つの家族」となったのです。

 2000年前、使徒パウロがローマ人へ書き送った手紙の中で、述べている言葉が非常に胸を打つ内容であり、今日の世界が切実に求めている根本精神であるといえます。
 新約聖書のローマ人への手紙第129節から15節を引用します。

 「愛には偽りがあってはならない。悪は憎み退け、善には親しみ結び、兄弟の愛をもって互にいつくしみ、進んで互に尊敬し合いなさい。熱心で、うむことなく、霊に燃え、主に仕え、望みをいだいて喜び、患難に耐え、常に祈りなさい。貧しい聖徒を助け、努めて旅人をもてなしなさい。あなたがたを迫害する者を祝福しなさい。祝福して、のろってはならない。喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい」

 パウロが述べたような精神が欠けていることが、世界が「共に生き、共に栄える」ことを困難にしているのであり、最終的に世界の問題を解決する道があるとすれば、それは、詰まるところ、人間の精神の在り方に帰着します。

 今回のニューデリー・サミットは、インド政府が六つのG20優先課題を掲げて臨みました。
 ①グリーン開発、気候金融、LiFE ②加速する包摂的で強靭(きょうじん)な成長 ③SDGsの進捗(しんちょく)加速化 技術革新とデジタル公共インフラ ⑤21世紀の多国間機構 女性主導の開発、となっています。

 やはり、会議の流れを難しくしているのは、ウクライナ侵攻で世界の非難を浴びているロシアのプーチン大統領の欠席、中印国境紛争でインドとトラブルを抱えている中国の習近平主席の欠席という二つの大きな穴が開いた状態での開催という点です。

 BRICS体制では、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国協調を推し進めながらも、ロシアや中国と微妙に違う考えを示しているインドにおけるG20の会議の流れを、プーチンも習近平も危惧している様子が感じられます。

 それは、バイデン大統領や岸田首相など、民主主義国家の首脳が参加する中、全体主義的共産主義、独裁主義の中国・ロシアがインドに足を運ばないという行動は、民主主義陣営にくみする余地などはないという頑固な抵抗力の表れなのです。BRICS陣営の流れに立つことこそが、今、求められているのだと宣言をしているという態度です。

 欧米中心主義のこれまでの政治経済政策が、新興国や開発途上国家に歓迎されなかったことは事実ですが、だからと言って、反欧米のBRICS中心で世界をまとめるという考えは新たな世界の分裂を招くだけで、「世界は一つの家族」というテーマと合致しません。