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青少年事情と教育を考える 236
生成AIの教育利用のガイドライン

ナビゲーター:中田 孝誠

 最近注目を集めている生成AIについて、文部科学省が7月、教育現場で活用する際のガイドラインを公表しました。

 この中では、「情報活用能力」は学習の基盤となる資質・能力であり、情報技術を学習や日常生活に活用できるようになることは重要で、生成AIの仕組みを理解し、近い将来使いこなす力を意識的に育てていくことの大切さを述べています。

 一方で、個人情報の流出や偽情報の拡散、そして批判的思考力や創造性、学習意欲への影響などが懸念されています。
 そのため、年齢制限や保護者同意などを前提に、特に小学生に利用させることには慎重な対応を取る必要があると述べています。

 また、学ぶことの意義についての理解を深める指導や、各教科で学ぶ知識や⽂章を読み解く⼒、物事を批判的に考察する⼒、「学びに向かう⼒、⼈間性等」の涵養(かんよう)、体験活動の充実などに⼀層留意する必要があることも指摘されています。

 ちなみに、ChatGPTを利用できるのは13歳以上で、18歳未満は保護者の同意が必要と定めています。他の企業が開発した生成AIも、利用規約を18歳か成人としています。

 こうした点を踏まえ、「適切でないと考えられる例」として、①情報活用能力が十分育成されていない段階で自由に使わせること、②各種コンクールの作品やレポート・小論文などについて、生成AIの生成物をそのまま応募・提出すること、③詩や俳句の創作、音楽・美術の表現・鑑賞など子供の感性や独創性を発揮させたい場面、感想を求める場面で安易に使わせること、④テーマに基づいて調べる場面で教科書などを用いる前に使わせること、などを挙げています。

 一方、「活用が考えられる例」として、①情報モラル教育の一環として、教師が生成AIが生成する誤りを含む回答を教材として使用、②生成AIをめぐる社会的議論について生徒自身が主体的に考え、議論する際の素材として活用する、③グループの考えをまとめたり、アイデアを出す段階で、足りない視点を見つけ議論を深めるために活用する、④英会話の相手、より自然な英語表現への改善、などを挙げています。

 このように、AI活用の議論には子供たちの学び方への影響をどう見るかが関わってきます。

 ちなみに、数年前に『AI VS.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)という著書が話題になった新井紀子氏は、本の中で「AIと共存する社会で、教育の喫緊の最重要課題は、中学校を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすること」と述べています。

 新井氏が2万人以上の中高生に行った読解力調査で、高校生の半数以上が教科書の記述を理解できていなかったというのです。
 基礎的な読解力がなければ、社会に出ても書類などの内容が正確に理解できません。AIの活用以前に、まずは子供たちの読解力不足を改善すべきというわけです。

 それともう一つ、最近印象に残った話を紹介します。
 雑誌『Voice』8月号に、『ChatGPTで教養は得られない』という対談記事が掲載されています。その中で森本あんり氏(東京女子大学学長)がAIと人間の違いについて、「いちばんの違いは、生物には身体があり、『死』があるということです」と述べています。
 人生には限りがあって、身体にも限界がある。そこに人間としての感情が生まれるというわけです。

 自然人類学者の長谷川眞理子氏も「人間には『いつか死ぬ』という限界があるからこそ意味がある」と述べ、AIに頼る前に「まずは、自らの人生を振り返ったときに何が印象に残り、そのとき何を感じて行動したかなど、自分自身の記憶と向き合うことから始めるべきでしょう」と強調しています。

 人間観から生成AIを見るという視点に、改めて人間とは何かを考えさせられます。