コラム・週刊Blessed Life 267
首都攻撃に入ったロシアとウクライナ

新海 一朗

 ロシアのウクライナ侵略戦争は、新たな局面に入ろうとしています。
 これまでは、戦場がほぼウクライナに限られ、ロシアの国土が戦場になることはありませんでした。ところが、ウクライナがどうやら本格的な反転攻勢に出る時期を見計らっているようであり、特に無人機、ドローンによる攻撃をモスクワに仕掛け始めているようで、ロシア政府および軍関係者たちには緊張が走っています。

 モスクワ攻撃となると、第2次世界大戦でヒトラーがスターリングラードからモスクワ攻略へと進めた悪夢がよみがえる苦い思いがロシア側にはあります。
 プーチンが仕掛けた侵略戦争とは言え、それは断じて許されるものではなく、断固阻止の構えが、当然ロシア軍の姿勢となります。

 このウクライナの強気の作戦に対して、ロシアではプーチンに対する不満の声も上がってきているようです。
 すでにロシア自由軍(ロシア軍の反乱分子)がウクライナ側に立って、ロシア側に発砲する前線部隊の動きなどもあり、非常に戦局はややこしい状態に陥っています。

 思い切った作戦を取ろうとするウクライナの反転攻勢の構えは、最後までウクライナの国土を守り通すという、絶対に引けない戦争を遂行する意志を見せています。

 ウクライナの作戦は、「形成作戦」を進めていると見られ、ロシアの後方基地、後方支援部隊をたたいてロシア軍の侵攻を食い止め、逆にウクライナ軍を前進させる条件をつくり出していくという戦いを進行させています。
 形成作戦とは、簡単に言えば、ロシア側の軍事インフラを破壊し、ウクライナ軍のための戦場を用意するというものです。

 ウクライナのフロロワ元国防次官は、ロシア軍の侵攻当初からキーウ周辺やヘルソン州、東部ハルキウ州の奪還などで形成作戦を行ってきたことを述べ、弾薬や燃料など物資の供給を止めた上で攻勢をかけると、ロシア軍は逃げ出さざるを得なくなり、形成作戦が非常に有効であることを語っています。

 問題は武器です。ロシア側もウクライナ側も、戦争遂行の条件は豊富な武器を備えていることが絶対条件ですが、両国とも武器が無尽蔵にあるわけではありません。
 これまでの戦争において、すでに相当の武器が消耗され、損傷を来し、新たに武器を製造するといっても、数カ月から1年、物によっては23年もかかるわけですから、弾薬、戦闘機、ミサイル、戦車、銃器類など、補充するのも大変な戦いです。戦争は簡単なものではありません。

 ロシア側には、すでに国内で不穏な動きもあり、プーチン政権は盤石な基盤に支えられているとは決して言えません。
 側近が一枚岩ではなく、反逆者が出る恐れもあります。軍人も政治家もみなプーチンに粛清されるのを恐れて自己保身に走っています。

 ウクライナが、本気でモスクワ攻撃を仕掛けてきたら、相当の混乱を引き起こすことが予想されます。
 ウクライナが気にしていることは、欧米からの支援が滞りなく続いてくれるのかどうかです。特に優秀な武器が供与されることが、最も重要なこととして、支援を要請しているわけです。

 5月の戦いを見ると、ロシアは再びキーウを連日攻撃し、ミサイルを撃ち込んでいます。反転攻勢で、ウクライナがモスクワを攻撃するようになると、双方の首都攻撃となり、雌雄を決する戦いの様相を帯びます。
 こうなると、ウクライナはロシアの前にひとたまりもないだろうといった予想を裏切り、ウクライナが白熱戦を展開する局面に向かいます。ロシアが“最終兵器”を使わないことを祈るばかりです。