制作の舞台裏から 13
幻の映像作品となった「聖なる使者たち」制作エピソード

 1980年代に制作された「聖なる使者たち」というドラマをご存じだろうか。

 日本統一教会(現・家庭連合)の先輩たちの伝道や祝福にまつわるエピソードをもとに制作されたドラマで、Part1Part2から成る2本シリーズのビデオ作品(VHS)だ。

 今では、“幻の映像作品”となってしまったが、私は当時、Part2の制作現場に立ち会った経験があり、断片的ではあるがこの場を借りて紹介したい。

 Part2は、日本統一教会初期において、伝道に情熱を燃やして歩んだ松本道子氏をはじめとする3人の女性伝道師たちの壮絶で感動的なエピソードをドラマ化した作品だ。

▲のぼりを立てて伝道する松本道子さん

 当時、私が所属していたビデオ制作会社(ワンワールド・プロダクション)のメンバーたちは、プロとして映像制作に携わった経験のある者は少なく、外部からその制作スキルを学ばざるを得ない状況にあった。

 入社して間もなかった20代後半の私も、このドラマの撮影現場を体験するために、「聖なる使者たち」の制作スタッフの一人として加わることになった。

 映画監督I氏が制作を務めたこの作品は、率いるスタッフも、テレビドラマや映画制作に精通するプロ集団であった。出演する俳優や女優も名だたる顔ぶれであった。

 私は、録音アシスタントとして派遣され、録音技師の指導のもと、各ロケ地となる撮影現場で貴重な体験をすることとなった。
 この録音技師は、大変気さくな人で、いつも冗談を言いながらも親しく接してくれた。しかし撮影本番の表情は真剣そのもので、仕事への情熱と責任感は半端ではなかった。
 スクリプター(記録)を担当していたベテラン女性スタッフが「あなたの師匠は、日本一の録音技師なのよ」と証ししてくれた。

▲草創期の伝道風景

 ドラマの撮影は台本どおりの順ではなく、役者やロケ地の撮影スケジュールを考慮して行われた。つまり撮影しやすいシーンから撮っていくのである。
 ロケ地に着くと役者もそろい、関連するシーンを中心に一挙に撮影が進められた。ロケ地への移動はロケバスが多かったが、撮影の合間に出される「つなぎ」やお弁当(ロケ弁)が、その場を和ませとても楽しみとなった。

 このドラマの中で、一番心に残り、涙を禁じ得なかったのが、開拓伝道に出発する母親が幼い子供二人を実家に残して別れていくシーンだ。
 伝道出発の早朝、寝ている子供たちの顔を見つめ、そっと別れを告げるのだが、子供たちがそれに気付いて「お母さん行かないで!」と抱き付く。
 子役の演技もなかなかのものだ。監督も撮影現場で涙し、「OK」を出すその声が震えていた。

 何と、このシーンの母親役の女優さんとロケ帰りの電車で、「帰り道が一緒」ということで、途中までご一緒させていただいたことがあった。
 隣席に座った女優さんと一体何を話したらよいのかとても緊張したが、その日は撮影所で、見せ場となる特殊撮影に臨んだ帰りでもあったので、「きょうはお疲れさまでした」と慰労の言葉をかけた。

 すると、「きょうの演技はいかがでしたか。あれで良かったのでしょうか」と感想を尋ねられたので、「とても良かったですよ」とお答えした。この役との出会いに喜びを感じておられるようで、こちらもうれしくなった。

▲草創期の街頭伝道の様子

 全ての撮影工程が終了し、編集工程に入ったが、引き続き私は、編集スタジオで監督の仕事ぶりを間近で拝見させていただくことになった。

 編集は作品を仕上げる上で重要な工程であり、スタッフに出す指示も実に的確であった。
 監督は近くで見ていた私に、「僕は信者ではないので、あなたが見ていて、これは違うのではないかと感じるところがあれば、遠慮しないで言ってね」と声をかけた。今でも忘れることのできない一言である。

 作品が完成して、寿司バーで「打ち上げ」が行われた。そこには教会関係者、監督、主要スタッフ、主演の役者らが招かれ、私も参加することとなった。
 特に感動的だったのは、役を演じた女優とそのモデルとなった女性伝道師たちとの出会いの場が設けられたことだった。

 あれから長い年月が経過し、今そのドラマをお見せすることができないのは残念でならないが、時代は新しい段階に入った。
 真のお母様も伝道の重要性を強調していらっしゃる。

 今こそ私たちは、先輩たちが歩まれた開拓伝道の精神を受け継ぎ、私たち自身がこれに続く「聖なる使者たち」となって、伝道の勝利の旗を打ち立てていかなければと決意を新たにした次第だ。

(T)