平和の大道 25
トンネルのための地質調査

 皆さんは、『平和の大道』という書籍をご存じでしょうか。著者は、一般財団法人国際ハイウェイ財団の理事長、佐藤博文氏です。
 同書は、国際ハイウェイ財団が推進する「国際ハイウェイ・日韓トンネル」プロジェクトの意義や背景などについて総合的に理解することのできる貴重な一冊です。
 Blessed Lifeではその一部を抜粋して紹介してまいります。ぜひお楽しみに!

佐藤 博文・著

(『平和の大道-国際ハイウェイ・日韓トンネル-』より)

 一体、トンネルのための地質調査とはどんなことをするのか、その全体像を説明しておこう。

 調査が始まると、一番始めに行うことは既存資料の収集である。国土地理院等に、国が行った調査のデータが保存されていたり、大学が保有している資料もある。収集された資料によって、トンネルを掘る地域の「概略的な地質図(平面図と断面図)」を作成する。その地質図に基づいて、「地表踏査」、つまり該当地域を足で歩き回るのである。

 地質の平面図を作れば自動的に断面図もできるが、それはあくまでも仮のものであり、それをより正確なものにするために、「ボーリング調査」と「弾性波探査」を実施する。それらによって得られたデータを、地層ごとに分析・解析する。

 それを、今まで日本で行ってきた何千本というトンネルのデータのパターンに当てはめてみると、「どんな地層構造になっているのか」が分かり、またその地層に適切な「トンネルの掘り方は何か」が出てくる。トンネルは完全に「経験工学」であり、調査によってある値が出れば、それに当てはまる工法が経験的に決まってくる。

 トンネルのルートを決めるまでの地質調査を「概査」と言う。最初は広い範囲を覆うように物理的な手段で調査するので物理探査と言われ、よく使われるのは弾性波探査や電気探査等である。物理探査は面の調査で、ボーリングは点の調査である。

 弾性波探査とは、調べたい地層のある一点で火薬の爆弾等によって振動波を作り、それが地中の地層境界等にぶつかって跳ね返ってくるのを、もう一点の受信機で捉え、その波の速度やパターンで地層の実態を探るものである。弾性波の震源としてはダイナマイトが多く使われる。弾性波は地層の硬さに比例して、地層が硬いほど波は速く伝わり、振幅は小さくなる。

 逆に地層が柔らかいと、振幅は大きくなり波は遅く伝わる。振動波が反射されてくるのは、地層の硬さが異なる面からである。同じ地層の中でも生成過程によって地層の硬さは違ってくる。したがって、違った地層でも硬さが同じであれば、その境界面からの反射はない。断層があれば、当然そこからも反射されてくる。

水文(すいもん)調査

 地層の中の水の動き等を調べるのが「水文調査」である。物理探査としては電気探査という手法を使う。地表の一点をプラス極にし、もう一方をマイナス極にして、地中に電気を流すと、地中の水によって電流の波形が変わってくる。それによってどこに水が溜っているのか、地下水脈があるのかが分かる。

 山にトンネルを掘る場合、よく地中に溜り水があって、出水事故につながることがある。そのため、山全体に電気探査をかけて水の有無を調べる。山全体にハリネズミのように電極を立てることによって溜り水のありそうな箇所が分かると、今度はボーリングで確認する。

 ボーリングする箇所は、地層の断面図を作成するのに必要と考えられるところから選ぶ。地表に出ている地層が、どういう角度で地中に入っているのかが分からないところがあったり、また地表に出ていない断層がある場合もある。断層とは、地震等の地殻変動で地層が切れているところを言う。どこに断層があるのか、地表踏査だけでは分からない。トンネル工事で一番トラブルになるのは水と断層であるが、それらがどこにあるのかを調べるためにボーリングを行う。

海洋での調査

 海洋での調査は、地上のように歩いては調査できないので、最初に「音波探査」を実施する。調査船の後ろに震源を垂らし、さらに、その後方に振動波の受信機を浮かべておく。海中での爆発による振動波は、海底や海底下の地層に反射して返ってくる。それによって陸上と同じように、地下構造を調べることができるのである。音源は電気的な信号とか、圧力ガスを噴出させる手法(ウォーターガン)等が代表的である。それぞれの境界で跳ね返った信号が記録され、それを過去のパターンに当てはめると、およその構造が分かる。

 それに並行して行われるのが「ドレッジング(dredging)」である。これは、直径約50cm、長さ約3mの鉄製の筒を海底に降ろし、それを船で引きずって、表面の岩石のサンプルを採集する。音波探査と同じ海域に対してこれを行う。

 対馬海峡では全部で約500カ所で実施した。さらに、どうしてもおかしい箇所や断層がある箇所では海洋ボーリングをする。

 「ボーリング調査」(オールコア・ボーリング)とは、中空のパイプで地中を掘り、その箇所の地層のサンプルをそのまま取り出すことである。このサンプルのことを「コア」と呼んでいる。油井や温泉の掘削だと、目的の油層や温泉に突き当たれば良いのだが、地質調査の場合は、その過程のコア採取が目的なので、注意して掘り下げていかなければならない。

 回転するパイプの先には、工業用ダイヤモンドを張り付けた刃が付いているが、それで500m掘ると、最大500mのコアを採ることができる。普通、コアは3m掘り進むごとに引き上げられる。コアは平均直径が7.5cmで、最初は太いパイプを使い、先に行くほど細いパイプになるので、コアも次第に細くなる。

 海洋の場合は、ボーリング専用の調査船を使うことになる。以前、日本では東海サルベージが一隻所有していた。海上では調査船から四本のワイヤーを伸ばし、アンカーリングという巨大な重りを海底に埋め、前後左右の船の動きをなくす。対馬沖の海域でボーリングをした時には、海流があまりにも速すぎたので、ワイヤロープが一本切れてしまった。一番大変なのは上下の揺れに対する対応である。そのため、船上に備えつけられたボーリングの機械そのものが、上下動に耐えられるように作られている。強力なバネが付いていて、上下動を吸収するのである。

 対馬沖では水深が150mのところで、海底下500mまでを40日かけて掘った。この日数は陸上と同じぐらいである。海洋ボーリングの経費は、水深150m、海底下500mで、現在の価格で約4億円かかる。陸上ボーリングは500mで約6000万円である。

ルート選定

 データが揃って地質図等ができると、それに基づいてトンネルのルート選定を行うが、技術的には地形、地質と施工法が問題になる。断層や出水があると工事が難しくなり、それだけ工事費もかさむので、できるだけ安定した地層を掘り進むようにルートを選定するのである。もっとも現実には、それに加えて行政的な条件も考慮の対象になる。

(『友情新聞』2013年7月1日号より)

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 次回は、「海底トンネルの工法」をお届けします。


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