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愛の勝利者ヤコブ 23

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「愛の勝利者ヤコブ」を毎週月曜日配信(予定)でお届けします。
 どの聖書物語作者も解明し得なかったヤコブの生涯が、著者の豊かな聖書知識と想像力で、現代にも通じる人生の勝利パターンとしてリアルに再現されました。(一部、編集部が加筆・修正)

野村 健二・著

(光言社・刊『愛の勝利者ヤコブ-神の祝福と約束の成就-』より)

井戸の争い②

 このように次々とイサクの一族ばかりが井戸を掘りあてていくのを見て、これまでイサクを排斥してゲラルの地から追いだそうと絶えずいやがらせをしてきたアビメレク王が、その友アホザテ、軍の総指揮者ピコルと共に三人連れ立って、はるばるゲラルからイサクのもとへとやって来た。

 「お久しぶりですね。しかしまた、一体どうしてあれほど嫌っておられたわたしの所にわざわざ来られたのです?」

 イサクがそう問うと、彼ら三人は声を合わせて言った。

 「われわれは神がいつもあなた様と共にあられることをまざまざと悟りましたので、あなた様との間で誓いを立て、あなた様と契約を結びたいと願いましてここに参りました。

 われわれはあなたに害を加えたことは一度もなく、ただ良い事だけをし、安全にゲラルの地から離れるようにお取り計らいしたのでございますから、どうかその点をお含みのうえ、われわれを痛めつけぬようご配慮いただきたいと思いまして……。いやまことに、あなた様は主に祝福されたおかたでございます」

 三人は地に頭をすりつけてイサクを拝み、その手はわなわなと震えていた。イサクは思わず吹き出しそうになった。生命の綱である大切な井戸をみんなふさいでしまうようなことをしたのに、「ただ良い事だけをし」などとよく抜け抜けと言えたものだと。しかし、ついこの間までそっくり返ってイサクに横柄な口をきいていた者たちが、友達の応援まで頼んであわれみを請うている姿は、滑稽(こっけい)である以上にあわれに思われた。

 「主よ」とイサクは心の中で祈った。「異邦の地にあって何一つ頼るもののない無力なわたしに、このようにその地の支配者が恐れて、わたしの前に頭を下げざるをえないほどの大きな力を与え、恵みを与えてくださったあなたはなんと偉大なおかたなのでしょう」と。

 「イサクよ、見たか。わたしをひたすら信じていきさえすれば、わたしが祝福を与えたお前に抗しうる者はただの一人としていない。勇気を出して雄々しく歩め」

 そういう神の声が、まざまざと心のうちに響いてくるように感じられた。イサクはうれしかった。そのうれしさだけで十分であった。

 「まあ、お顔をお上げください。ただ良い事だけをされたおかたが、そのような格好をなさる必要はありますまい……。あなたがたが言われるとおりです。通りすがりのどこの馬の骨とも分からないわたしに、危害も加えず、いつも親切にしてくださったことを心より感謝申しております。さあさあ、そのお礼までに、ほんの心ばかりですがすぐ食事を用意させますので、ひとつゆっくりとお過ごしになってください」

 アビメレク王の額から油汗がしたたり落ちた。

 「申し訳ございません。いろいろこれまで監督がゆきとどかず、部下が失礼なことをしでかしたとあとから聞きまして、……そのおわびも合わせてと存じて参りましたようなわけで、ぜひなにとぞ今後とも……」

 まだ狼藉(ろうぜき)を部下のせいにして言い訳をしている。イサクはそう思いながらもアビメレク王を責める気にはならず、かえって抱きしめてやりたいようないとおしささえ感じられてくるのが、われながら不思議に思われた。

 「まあまあ、どちらでもけっこう。わたしは何とも思ってはおりません。さあ急ぎの有り合わせの物ばかりでろくなものはありませんが、存分に召し上がって。部下のかたがたにもおみやげを持っていらしてください」

 「いやなんともはや恐れ入りましてございます。こんな情深いおかたがこの世にあられようとは……。いやぁ、生き神様とは、あなたのようなおかたをいうのでございましょうな」

 「めっそうもない。わたしなど神様のただの召使いに過ぎません。わたしではなく、神様があなたがたに恵みを与えられるのです。神様に心からお礼をし、これからは大切になさることですね。

 太陽や造りものの像など拝んでも何にもなりません。この天地のすべてをつくられた創造主ヤハウェのほかに神はない、ということをよく心にお留めなさいませ。それ以外のものを礼拝したり、頼んだりすることは神をけがす以外の何ものでもありません」

 「ごもっともです」

 「さあ、そうかしこまらずに、今夜はひとつ楽しく一杯やりましょう。新しい友人がまた一人増えて、こんなに愉快なことはありません」

 満面に笑みをたたえてイサクが杯を勧めると、三人はかしこまってそれを受けた。やがて宴が進むほどに彼らも心がほどけて、陽気に歌ったり踊ったりし始めた。

 その様子を見てイサクは、心の中で神をたたえ深々と感謝の祈りをささげるのであった。

 「これで万事うまくいきそうだ。これからは新しい水源を掘りあてても、彼らに妨害されることはよもやあるまい。全能の神よ、あれほどしつこくいやがらせをし続けた者をさえも、完全に参らせて心服させてしまうあなたは、何という偉大なご存在でしょう」

 翌朝、イサクとアビメレク王ら一行とは、お互いの間にはっきりとした境界を設けて侵し合わないことを誓い合った。その後、彼らはそれまでとは別人のようにおとなしくなり、イサクの領内のことにはいっさい手出しをしなくなった。

 さてイサクの問題の双生児(ふたご)の長子エサウは、40歳の時、創造主を敬わない異国の者と結婚してはならないという両親の切なる願いを無視して、ヘブロンの先住民のヘテ人(創世記233など)ベエリの娘ユデテ、同じくヘテ人エロンの娘バスマテとを妻にめとった。これらの妻のことが「イサクとリベカにとって心の痛みとなった」(同2635)と聖書にはある。

 パンとレンズ豆のスープと引き換えに、ヤコブに長子の家督権を譲り渡したことと共に、このように神をないがしろにする行為をなしたということ。これは、エサウにすでに神の祝福を受ける資格がないことを示すものなのだが、どういうわけか、このことを明確に指摘している聖書物語や注釈書がほとんど見当たらない。

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 次回は、「イサクの祝福①」をお届けします。