世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

オウム、松本智津夫死刑囚の刑執行

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 72日から8日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 東京地検特捜部が、文部科学省科学技術・学術政策局長の佐野太容疑者を受託収賄の疑いで逮捕(74日)。米中間貿易、追加関税発動。互いに約5.5兆円規模(6日)。オウム、松本死刑囚の刑執行(6日)。ポンペオ米国務長官が訪朝。金英哲党副委員長と会談(67日)。西日本豪雨、甚大な被害もたらす、などです。

 今回は、オウム、松本智津夫死刑囚ら幹部6人刑執行について述べてみます。この知らせをテレビの緊急ニューステロップで知りました。刑の執行の是非よりも、ついにこの日が来た、との思いです。再び、宗教と社会、国家との関わりが人々の心に浮かび、しばらく議論が続くことになるでしょう。
 ある関係者の話ですが、松本智津夫氏の刑執行書面に判を押そうとすると、それがスッと動くというのです。実際にはあり得ないことですが、「オウム真理教」事件、松本氏に関する不可解さが生んだ「話」なのです。

 この事件は日本と世界を変えたと言えるでしょう。現時点では良くない方向に変えたと言わねばなりません。宗教という真の平和をもたらすべき主体が、国家の転覆を狙い、その準備を進めていたのです。多くの情報が入っていながら、警察当局の動きは、「宗教団体」という看板を前にして鈍かったのです。

 結果として教団による数々の事件で計29人の命が奪われました。特に地下鉄サリン事件(1995320日)では6500人以上が負傷しました。この事件は、日本で初めての大規模な化学テロであり、世界に衝撃を与えました。そして「修行」と称してテロを行った世界的にも特異なケースとして世界のメディアが報じたのです。

 オウム真理教の前身は、1984年に設立された「オウム神仙の会」です。89年に宗教法人資格を取得し、一時の信者数は海外(特にロシアが多い)も含めて1万人を超えました。
 平成時代最も凶悪とも言える一連の事件が引き起こされた原因は、教団がつぶされるという危機意識と、殺すことが救うことと通じてしまうという特異な宗教論理(ポア)がありました。
 そして、松本氏(麻原)を喜ばせる言動をしようとした弟子と、弟子が期待するように振る舞った松本氏の相互作用が一線を越える悲劇を生んだと言えるのです。
 すでに述べたように、事件後、日本も世界も変わりました。「オウムみたいなものではないのか」「オウムのようになる前に」という警戒心が、「宗教」に付きまとうことになったのです。日本では、イスラム過激派IS(イスラム国)も「オウム」のようだ、とくくられてしまうのです。

 汚れた存在と聖なる存在に分けること。さらに(オウムのように)汚れた存在は排除(ポア)するしかないと考えることは救い(解放)にはなりません。最も悲惨な所まで下りて行って解放してあげるのが救いでなければならないのです。宗教の在り方が問われています。