世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

14回 習氏、「領土は一寸たりと失わない」

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 625日から71日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 トルコ大統領選挙、エルドアン氏続投確定(投票は624日、確定が25日)。米国がイランからの原油輸入を停止するよう各国に要請(26日)。マティス米国防長官初めての訪中。27日、習近平主席と会談(26日)。安倍晋三首相、マティス国防長官と会談(29日)。「働き方改革」関連法成立(29日)。中国の海警局が武警(人民武装警察部隊、中央軍事委員会管轄)へ移管、などです。

 今回は、米中関係です。マティス国防長官の初めての中国を訪問について取り上げます。マティス氏が北京に到着したその日、中国海軍の駆逐艦などが台湾周辺海域を周回する「実践訓練」を実施し、発表しました。米国への牽制の狙いは明らかです。
 習近平国家主席との会談は627日でした。マティス氏は、中国による南シナ海の軍事拠点化を容認しない姿勢を率直に述べています。米国の対中姿勢は、最近、厳しさを増しており、すでに紹介しましたが、米海軍主催の今年の環太平洋合同演習(リムパック)への中国の招待を取り消したのです(523日)。

 一方、習氏も曖昧な言葉を避け、主権問題について「中国の態度は明確だ。祖先の残した領土は一寸たりとも失わない」と強調し、一歩も引かない姿勢を示しました。
 そして、「広大な太平洋はアメリカと中国とその他の国を受け入れることができる」と述べ、持論である「太平洋分割統治論(=米中新型大国関係論)」を披歴したのです。

 南シナ海の領有権問題はすでに、国際法的には決着済みです。
 オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016712日、南シナ海領有権に関する中国の主張を退ける判決を下しているのです。この決は、2013年に行ったフィリピンの提訴に基づくものでした。中国の言動は、国際法を無視した力による現状変更であって、受け入れることはできません。
 南シナ海は台湾問題に重要な影響を与えます。「台湾統一」を目標に掲げる習政権にとって、軍事戦略上、南シナ海の軍事拠点化は不可欠なのです。
 朝鮮半島の非核化を巡って米中は、北朝鮮を、そして今後ロシアを自陣営に引き込もうとするでしょう。北東アジアは本格的な「地殻変動期」に入ったのです。