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【テキスト版】
ほぼ5分でわかる介護・福祉QA

32回 障がい者福祉編⑭
息子は精神疾患かもしれないのですが、一生入院生活になるのではないかと不安です

ナビゲーター:宮本 知洋(家庭連合福祉部長)

(動画版『ほぼ5分でわかる介護・福祉Q&A』より)

 医学用語・法律用語としては「障害」とし、一般的な用語としては「障がい」と表記しています。

 今回は、「息子は精神疾患かもしれないのですが、精神科に行くと一生入院生活になるのではないかという不安があります。それでも受診した方がいいでしょうか?」という質問にお答えします。

 精神疾患の症状が現れたとき、精神科に行くことに抵抗を感じるという人も多いでしょう。

 では、なぜ精神科を受診することにそれほどの抵抗感があるのでしょうか。
 その理由の一つとして、精神保健の負の歴史とでも言うべき内容があると思います。

 今回は、ご質問に回答するに当たって、まずその歴史を説明させていただきます。

 精神障害の人たちは歴史的に非人道的な扱いを受けてきた経緯があります。

 日本には過去、「精神病者監護法」(1900年施行)という法律がありましたが、その法律では親族が監護義務者となり、精神障害者を私宅監置することが認められていました。
 私宅監置とは、簡単に言えば自宅に座敷牢(ろう)のようなものをつくり、閉じ込めておくことです。

 その後、大正8年(1919年)に「精神病院法」が制定され、公的精神病院の設置などがうたわれましたが、病院建設はなかなか進みませんでした。

 戦後、公衆衛生の向上増進を国の責務とした日本国憲法が成立したことを受け、昭和25年(1950年)「精神衛生法」が制定されました。精神衛生法では私宅監置が禁止され、各県に精神科病院を設置することが義務化されました。これにより、わが国では精神科病院が一気に増設されることとなりました。

 その結果、精神障害者に対して提供される医療・保護の機会が拡大しましたが、その一方で入院患者はどんどん増加し、退院後の受け入れ先がないことなどによる入院長期化の問題も生じてきました。また、病院内における人権侵害という問題も頻発するようになってきました。病院の職員が患者を殺害するという事件まで起きました。

 やがて精神障害者の人権擁護の声が高まったことを受け、人権に配慮した適正な医療と保護、および社会復帰の促進がうたわれた「精神保健法」(1987年)が制定されました。

 精神衛生法を改正した精神保健法では患者本人の意思による入院、すなわち任意入院制度が創設され、精神保健指定医や精神医療審査会、精神障害者社会復帰施設などが設置されました。

 さらに、平成5年(1993年)に「障害者基本法」が制定されたことを踏まえ、平成7年(1995年)には精神保健法を改正した「精神保健福祉法」が施行されました。

 精神保健福祉法では、精神障害者を医療の対象のみならず、福祉の対象としても位置付け、障がい者であることを明記しました。

 つまり、精神疾患を発症した人に対し、病気を治療するだけではなく、その後の生活を充実させることをも目指した行政的支援を行うことになったのです。精神障害者保健福祉手帳が制度化されたのもこの法律によってです。

 精神保健福祉法はその後、何度か改正されましたが、平成16年(2004年)の改正では「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本方針が示されました。

 そして現在では入院直後から退院支援委員会が設置され、入院の必要性の有無や入院期間の明確化、退院に向けた取り組みなどについて審議を行うようになっています。

 過去においては人権侵害があったり、長期の入院生活が余儀なくされたりしたことも多くあった精神保健制度でしたが、現在では法律が改正された結果、以前のような状況ではなくなっているのだということが、以上見てきたことから分かります。

 もちろんまだ改善の余地があることも事実ですし、病状によっては長期入院しなければならないこともあるでしょうが、必要以上に精神科にかかることを恐れて状態を悪くしてしまうより、早期に対応し、早期に改善できるようにした方がよいかと思います。

 それでは、今回の講座はこれで終わりにさせていただきます。