コラム・週刊Blessed Life 240
EUの物価高騰、ウクライナ支援も正念場か!

新海 一朗

 ロシアのウクライナ侵攻が始まって8カ月が経過しましたが、欧州連合(EU)に加盟する欧州諸国では長引く戦争が誘発した物価高騰を背景に市民の間では厭戦(えんせん)ムードが高まってきています。
 欧州諸国はウクライナへの支援を続けられるか、正念場にあります。

 10月25日には先進7カ国(G7)の議長国ドイツの主催で、ウクライナ復興支援に向けた国際会議が開かれました。

 英国では保守党のトラス政権がインフレ対策の一環として大規模な減税を打ち出しましたが、財源の裏付けが曖昧なことを金融市場が見抜き、早々と政権が退陣に追い込まれました。
 このことを通して欧州の指導者たちは、インフレと生活水準低下への対応を誤った場合の政治生命の終焉(しゅうえん)の怖さを英国のトラス政権によって思い知らされました。

 欧州諸国はロシアに対する経済制裁では大方足並みをそろえ、安価なロシア産化石燃料(天然ガス、石油など)の輸入停止に踏み切りました。
 しかし、インフレ高進で欧州市民の間では、ロシア産の化石燃料の必要性で揺れ動いています。

 ニューヨーク・タイムズは、「そろそろウクライナへの軍事支援をやめ、当事者間の交渉にシフトする時が来たのではないのか。インフレ下での経済支援を必要とする多くの人々は、しびれを切らし始めている」とのローマ市民の不満を紹介しています。

 EU域内のインフレ率は9月には10.9%、これは1年前(3.6%)の3倍以上、過去数十年間で最高レベルに達しました。

 フランスでは各地で物価高騰に反発するストやデモなどの抗議行動が活発化しています。これに対してマクロン大統領はウクライナへの連帯の証しとして経済的苦境を耐え忍ぶよう国民に呼びかけました。
 フランス国民はロシアによる侵略反対では一致しているものの、ウクライナ支援のために自分たちの生活費を犠牲に、物価高騰に耐えるかどうかでは意見が分かれているのです。

 ドイツでは東部を中心に物価高への怒りを表明する抗議行動が広がっています。
 ドイツ政府は2000億ユーロに上る支援パッケージを打ち出したことで、国民の不満を幾分和らげました。

 一方、バルト3国ではインフレ率は軒並み20%を超えていますが、国境を接するロシアからの脅威の度合いが強いため、プーチン政権への反対が物価高への抗議に優先しています。ロシアへの脅威と反抗が物価高への不満を押し殺している状態です。

 ゼレンスキー大統領はベルリンで行われたウクライナ復興支援に向けた国際会議へのビデオメッセージで、「ウクライナはデジタル経済を目指している」との構想を明らかにし、「ウクライナに投資することは将来のEU加盟国に投資することだ」と述べ、ウクライナへの投資拡大を呼びかけました。

 同会議では、世界銀行が3490億ドル(約50兆円)以上と試算するウクライナの復興費用を拠出する国際的な枠組みづくりについて、各国首脳や国際機関トップが具体策を協議しました。

 ドイツのショルツ首相は、「21世紀の新たなマーシャル・プラン」が必要だと強調し、第2次世界大戦後の米国による巨額の欧州復興支援になぞらえて、巨額の援助への協力を訴えました。

 ウクライナ戦争の長期化に伴い、戦争がもたらした物価高騰のあおりを受けた欧州では戦争を嫌気(いやき)するムードが広がる一方、早くもウクライナ戦争終結の戦後を見据えた復興支援の青写真が描かれ始めているのです。