青少年事情と教育を考える 211
宗教教育をどう考える?

ナビゲーター:中田 孝誠

 今回は宗教教育について考えてみたいと思います。

 お盆の時期、多くの日本人が先祖の墓参りをします。これは、先祖を大切にする良き伝統ではないかと思います。
 ただ、墓参りをする際、その宗教の教えがどのようなものなのか、といったことまで意識することは少ないのではないでしょうか。

 学校における宗教教育について、教育界でもたびたび議論になってきました。

 教育基本法第15条には「宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない」とする一方、「国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない」と規定しています。

 このため、授業で宗教を取り上げることには否定的な雰囲気も強く、取り上げても一般的な教養や歴史、文化として教える形が大半だと言えます。もちろん特定の宗教(宗派)の教えだけを授業で取り上げるというわけにはいきません。

 宗教教育について、世界の教科書の内容を比較した興味深い本があります。
 『世界の教科書でよむ〈宗教〉』(藤原聖子著、ちくまプリマ―新書、2011年)という本です。

 この本では、世界9カ国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、トルコ、タイ、インドネシア、フィリピン、韓国)の教科書で宗教がどのように取り上げられているかを紹介しています。

 著者によると、上記の国々は「宗教を持っている」と答える人が日本に比べて多い国ですが、教科書では、異なる宗教同士が「お互いに認め合う」というメッセージ、つまり他宗教との相互理解や寛容の姿勢を説いています。

 これに対して日本では、現在の諸宗教の姿よりも、過去の歴史的事件や開祖(イエス、ブッダ、ムハンマドなど)の生涯、思想を学ぶことが多く、宗教が“今も生きている”ものではなく、“歴史・伝統をつくったもの”として扱われている傾向があるというのです。

 また、国際理解や多文化共生教育の中で宗教に基づく生活文化や習慣を学ぶことはあっても、身近にいる信者を目立たせないようにする雰囲気があり、宗教に対する一方的なイメージだけが広がる可能性があるとも述べています。

 上記のように、教育基本法の規定などがありますし、文化的な背景も異なりますから、今の日本のやり方は間違っていると一概には言えないでしょう。

 ただ、道徳教育には宗教教育が必要だとする専門家の指摘もあります。
 「特別の教科 道徳」の学習指導要領(中学校)では、教育内容の一つとして「美しいものや気高いものに感動する心をもち、人間の力を超えたものに対する畏敬の念を深めること」をうたっています。

 あるいは、宗教的情操の教育は教育基本法の規定の中でも可能といった声もあります。
 そして学校だけでなく、家庭も含めて、宗教をどのように教えるか、改めて考えてみることが重要ではないでしょうか。