愛の知恵袋 163
高齢期の課題―“孤独”という試練

(APTF『真の家庭』284号[20226月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

ある男性からの告白

 70歳の男性からの相談でした。「とにかく、毎日が憂鬱だ」と言います。

 彼は60歳で定年退職し、5年間関連会社で働いて65歳で退職。節約すれば何とか年金で暮らして行けそうだが、憂鬱で何もやる気が出ない。「ご家族は?」と聞くと、以前から妻とは別居で一人暮らし。子供は全く音信がないという。

 近所の人達との付き合いもないし、これといった友達もいないので寂しくて不安だったが、彼を「何もする気力がない」というところまで落ち込ませたのは最近の世情でした。テレビはもう2年以上コロナの報道ばかり。人にも会えない。そこに毎日ウクライナ戦争の悲惨なニュース。見るたびに憂鬱になり、「もう、生きていくのも嫌になった」と言うのです。

 一種の老人性うつの症状ではないかと思われましたが、今後のことが心配でした。

孤立する高齢者が増えている

 2021年の総務省発表のデータによると、日本では65歳以上の高齢者が3640万人になり、今や、全人口の29.1%に達し、高齢化率は世界1位です。また、高齢者の一人暮らしが年々増加し、2020年には671万人に達し、5人に1人となりました。

 その結果、高齢者の孤独死が増えています。東京の23区内だけでも2003年に1451人であったものが、2015年には3127人となり、2倍に増加しています。

 男女の別では、孤独死は男性のほうが3倍も多いというのが実情です。女性は友達が多いのですが、男性は友達作りが苦手な人が多く孤立しやすいのです。

 孤独死が増えた原因は、第一に、地域社会の人的交流が希薄になったこと。第二に、核家族が増え、子供が遠方で暮らすようになったこと。第三に、個人主義思想が蔓延し、家庭の価値が軽視され、晩婚・非婚・離婚が増えてきたためです。

 いずれにせよ、家族や社会のために精いっぱい生きてきた人生の最後が、誰にも看取られずに死んでいく孤独死というのは、あまりにも悲しいことです。

 縄文・弥生の時代から、数千年も家族や血縁・地縁を大事にして生きてきた日本人にとって、このような事態は異常なことと言えるでしょう。

高齢期に直面する“孤独”という試練

 高齢者に関するアンケート調査では、「近所付き合いの程度」について、一人暮らしの高齢者の64%が「ほとんどない」又は「挨拶する程度」になっています。

 「(電話も含めた)会話の頻度」については、一人暮らしでは、1週間に1回以下と23日に1回という回答の人が、男性では3割、女性でも2割いました。

 更に、心配なことは高齢者の5人に1人が、「困った時に頼れる人がいない」と答えていることです。これは最も深刻な問題です。

 かつては三世代が同居し、年老いた親の面倒を子供が見るのが当たり前でしたが、近年は子供が遠隔地に就職し、残された両親はやがて死別で一人暮らしとなります。

 田舎はもちろんですが、今では都市部でも独居高齢者が増えています。一人暮らしでは、家で転倒して動けなくなったり、心筋梗塞や脳卒中で動けなくなった時、すぐに救護してくれる人がいません。

 北欧のように皆が老人施設に入る道もありますが、生きがい喪失で自殺も多いのです。文明が発達して便利な時代になっても、これでは幸せ”とは言えません。

 今こそ“家庭再建”三世代同居”の国民的運動が必要な時期を迎えています。

三世代同居! それが無理なら心の友をつくっておこう

 現在、日本では国も地方自治体も高齢化社会に向けて、地域見守り活動などの施策を推進して高齢者支援の仕組みを整えようとしていますが、まだ課題山積です。

 従って、私達は自分でも今後起こり得る事態を想定して備えをしておくベきです。

 年と共に誰でも起こり得る病気やケガに対しては医療保険等の備えも必要です。

 また、手ごわい相手となる「老人性うつ」や「認知症」になる場合もあります。周りが「気の持ちよう!」「しっかりして!」などと言って精神論で済ませていると大変です。兆候が出たら早めに家族で話し合い、専門医に相談するのが賢明です。

 経済的な困窮、家族関係もうまくいかない、体調も悪い…となると、誰でも気分が滅入ってしまい、放置するとうつ病になることもあります。そんな時に一番大切なのが話し相手”です。今のうちに何でも本音で話せる友達を作りましょう!

 家族との会話を増やすことが一番ですが、もし、自分が一人暮らしなら、親戚から一人、友人から一人、この人と思う人を選んで意識して交流を深め、つらい時はお茶でもしながら存分に話し合える“心の友”になっておきましょう。

 晩年の親友は最高の宝です。万一の時、その人が自分の救世主になってくれます。

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