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【B-Life『世界家庭』コーナー】
トムヤムクンを召し上がれ

バンコク生活記⑧
知らなかった、タイの医療水準の高さ

 2013年から2014年まで『トゥデイズ・ワールド ジャパン』に掲載された懐かしのエッセー「トムヤムクンを召し上がれ バンコク生活記⑧」の一部を、特別にBlessed Lifeでお届けします!

 筆者のアルンローッゴーソン真理子さんは、6500双のタイ日家庭です。

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 タイで生活を始めて2か月目に入った頃、ひどい下痢になりました。日本から持参した薬と祖母の手作り梅肉エキスなど、何を飲んでも下痢は止まりません。

 先輩家庭に相談したら、「そうなのよ! タイの下痢には日本の薬が効かないのよ」と返事が来ました。

 1週間が経過しても変わらず、とうとう熱が出て体力も低下。私は海外旅行保険に入ってきてはいましたが、〝タイの病院は信用できないし、おまけに言葉も通じなければ正しい診断も出せないだろう〟と思い込んでいました。

 結局、病院に行かないまま、先輩から「紅茶には殺菌作用があるのよ」と聞いていたのを信じて、紅茶をガンガン飲むうちに下痢は治まりました。今思えば笑い話です。

 実は、首都バンコクの医療水準は高く、アジアの医療ハブ(中心)を目指すほど。東南アジアではシンガポールの次に高い評価を得ていたのです。そのことを知ったのは、私が国際病院で通訳として働き始めてからでした――。

▲国際病院の中の病室

▲国際病院の中のショッピングセンター

 ある国際病院では、日本の国費外国人留学生制度(※1)を利用して東大や京大などの医学部に留学し、日本の医師免許を取得した先生もいて、その先生の流暢な日本語には驚かされます。


※1:日本が奨学金を出して留学生を受け入れる制度

 最近は、日本人医師がタイ語でタイの国家試験を受け、免許を取得した先生まで登場し、おかげで日本人の強い味方となっています。主要な私立病院では日本語通訳が24時間態勢でサービスを行っているため、言葉に困ることはありません。

 国際病院で働いているとタイの富裕層の人々や世界の有名人、日本人に会う機会があり、とても刺激的な毎日です。近隣諸国では医療が発達していないため、富豪はタイで治療を受ける人が多く、国が違えば宗教や生活習慣も違うため、患者とその家族に合わせた病棟造りがなされています。仏教、キリスト教、イスラム教など宗派別に祈祷室も設けられているので、私もときどき利用させてもらっています。

 国際病院によってはPETCT(※2)や手術支援ロボットを導入している所や、病室はホテル並みの快適な環境を完備しています。


※2:陽電子放出断層撮影・コンピュータ断層撮影の略。

 とは言っても国際病院は、一般のタイ人やスポンサーのいない外国人には敷居が高く、タイ語ができればエコノミークラスの私立病院や、格安の国立病院を受診するのが通常です。しかし国立病院は朝6時から受付が開始しても、受診まで何時間も待たされ、人の扱いも荒いので、かなりの覚悟が必要です。

 以前、主人の顔にホクロができて、それがドンドン大きくなり癌かもしれないからと国立病院で慌てて切除したことがあります。手術代は700バーツ(約2100円)で、国際病院だったらその約10倍です。

 その後、検査結果を聴きに主人と共に病院を訪ねると、エアコンがガンガン利いている中を3時間も待たされました。

 凍りつく寸前で診察室に入ると、若くて美しい女医さんから「癌ではないけれど、UV(紫外線)対策してくださいね」と優しく言われ、冷えきった体のことなど忘れてしまいました。診察料も50バーツ(約150円)と安いしで、「国立病院も悪くないかも」と思いました。

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(この記事は、『トゥデイズ・ワールド ジャパン』2014年1月号に掲載されたものです)