愛の知恵袋 14
心は愛によって育つ

(APTF『真の家庭』124号[2月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

心を病んだ子供たち
 不登校になったり、荒れたり、引きこもりになったりする子供たちが増えていますが、それらの子供たちの心の底には、「周囲の人たちから本当の愛情を感じられない」という悲しみが見られます。

 学校で教師や友達とうまく心のつながりを結べず、家に帰っても細かいことをガミガミ叱られて安らぎが得られない。特に最近は両親の留守も多く、兄弟も少ないため誰に相談することもできないで沈み込んでいくのです。そんなとき、せめて祖父母や周囲の人たちが面倒を見てくれるとよいのですが、今は以前のような三世代の大家族時代ではないので、祖父母に甘えることも叶いません。そして親戚やご近所との付き合いも薄くなる一方です。

 子供たちは、両親や教師や友達と心の絆を感じきれない結果、引きこもりや無気力症になっていることが多いのです。その心が「自分は愛されていない。理解されていない」と傷ついています。そんな子供たちが心の底から立ち上がる力を得るためには、両親や教師の信頼と愛情の強いメッセージを感じとることが必要です。

愛の欠乏症
 私がカウンセリングを通して感じてきたことがあります。うつ病など精神症に陥った人の告白を聞くと、子供でも大人でも共通しているのは「深い心の傷」を負っているということです。その心の奥からは、「愛を得られない悲しみの叫び」が伝わってきます。

 うつ病や自閉症、無気力症、パニック障害などの精神症に陥る大きな原因の一つに、「愛の欠乏」という根本的な問題があるように感じるのです。

 ということは、逆に言えば、これらの症状を改善する特効薬は、「真の愛情」であるということになります。

 愛が欠乏すれば、人間のこころ(霊性)は死んでしまいます。生きていく力を失うのです。肉体の維持と成長には、酸素と栄養素が絶対不可欠であるように、人間の心の安定と成長には、真実の言葉と愛情が不可欠なのです。

 心の中には理性と情緒の世界があります。人はいつも、理性を納得させ満足させてくれる正しい言葉(即ち真理)を求めており、また、それ以上に、情を満足させてくれる完全で深い愛情を求めています。

 子供に影響を与える環境は、まず第1に家族と親族、第2に学校、第3に暮らしている地域社会、第四にその国の国家事情がありますが、そのうち最も直接的で大きな影響を与えるのは家族との関係であることは言うまでもありません。

家庭愛の根源は夫婦仲
 しかし、その家庭の両親が、夫婦関係が悪く衝突が絶えないという場合、父親も母親も常に不満を抱えていて機嫌が悪い状態になります。「夫に愛がないから尽くしてあげる気にならないのよ」「妻に優しさがないから愛せないんだ」と、お互いに相手を非難し合うのみです。

 家庭で妻から癒されなくなった父親は、ストレスがたまる一方で不機嫌になり、家に帰っても怒りっぽくなり、人によっては酒や賭け事にのめり込んだりもします。また、夫から愛情を感じ取れなくなった母親からは、笑顔が消え、口を開けば愚痴がこぼれ、ちょっとしたことでカッとなり、きつい言葉を投げるようになります。

 このような両親の状態は子供の心に大きな打撃を与えます。口をきかなくなったり、イライラして怒鳴るようになったり、ふさぎ込んでしまったり、反応は様々ですが、いずれにせよ、心を閉ざすことになります。それがずっと続けば、不登校や家出、うつ病、不純異性交遊といった深刻な事態を招きかねません。

 このような事態を避けるためには、第1に、子供のいるところでは決して夫婦喧嘩をしないことです。第2に、水入らずのティータイム。つまり、1日に一度は夫婦二人だけの穏やかな語らいの時間を持つことが効果的だと思います。

家庭は愛の母港
 やはり、子供にとって「家庭は愛の母港」です。どこに行ったとしても、そこしか帰るところがないのです。全てを受け入れてくれるような父母の穏やかなまなざし、おいしい食事、楽しい一家団欒……、それらこそ、子供たちが心の底から待ち望んでいるものなのです。両親の仲睦まじい姿を見ると、なぜか子供はとても嬉しくなります。母親の優しい言葉、細やかな気配り、明るい笑顔、そこにお父さんの愉快な冗談、おおらかな笑い声が重なって……。

 そのような両親の何気ない振る舞いの一つ一つが、子供の心に安らぎと癒しを与え、彼らに幸せと希望を感じさせます。そうすれば子供たちは、未来に夢を抱いて自分で前に向かって進んで行きます。

 本当の教育というのは、知識を教えることや、有名な学校に行かせようとすること以上に、真の愛情によって、心を豊かに育てることなのではないかと感じさせられる昨今です。