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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国「ゼロコロナ」政策の影響懸念

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、328日から43日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 韓国、現大統領と次期大統領が初会談(328日)。米政府、国防戦略を議会に通達~露より中国対応優先(28日)。中国感染者 20203月末以降最多に(29日)。中露外相会談~露、中国の協力で対抗の考え(30日)。対台湾「曖昧戦略」見直しを=安倍元首相、米国に呼びかけ(31日)。中国コロナ対策、上海市西部をロックダウン(41日)、などです。

 中国・上海市は41日、コロナ感染対策として西部地域のロックダウン(都市封鎖)を行いました。

 本土で感染が広がり始めたのは3月以降です。各地でロックダウンが行われ、東北部では吉林省長春市のトヨタ自動車、遼寧省瀋陽市のドイツBMW、上海市では米テスラの工場が停止しています。

▲中国・上海市

 習近平政権は「ゼロコロナ」政策を徹底していることもあり、経済への打撃は鮮明になりつつあります。
 中国では人口の約9割がワクチン接種をしましたが、国産品しか認可されておらず、世界保健機関(WHO)などによると中国製ワクチンは米ファイザーやモデルナよりも効果が低いといわれているのです。

 米国の国際政治学者イアン・ブレマー氏が社長を務めるコンサルティング会社ユーラシア・グループは今年の13日、毎年恒例の「世界の十大リスク」を発表しています。
 今年の1位として、中国の「ゼロコロナ」政策が失敗し、世界経済が混乱する事態を予測しています。

 中国のコロナ対策は、当初、成功しているかのように見えたのですが、感染力の強い変異株「オミクロン株」などの流行で完全な封じ込めは実現不可能だと、ユーラシア・グループは分析しています。
 さらに中国は「ゼロコロナ」政策に固執して都市封鎖などを続けるためサプライチェーン(供給網)は混乱し、インフレに拍車がかかり、世界経済が不安定化すると予測しているのです。

 習近平主席は317日、共産党幹部らを前に「ゼロコロナ」政策の維持を改めて指示しました。
 欧米などがコロナとの共生を図る「ウィズコロナ」にかじを切りつつあるのとは正反対です。習主席が経済への影響を知らないはずはありません。それでもなぜ固執するのでしょうか。

 第一に、今秋の中国共産党大会で異例の3期目政権を順調に発足させるため、「社会の安定」を最優先していることが挙げられます。
 中国では大都市以外は医療体制が脆弱(ぜいじゃく)であり、仮にコロナ対策を緩和すれば、感染が広がって各地で医療崩壊を引き起こしかねません。それは習主席批判の口実ともなり得ると考えているのでしょう。

 第二に、共産党は決して間違わないという「無謬(むびゅう)神話」に拘束されているといえます。
 政権が政策を修正する柔軟性を欠いているのです。

 第三に、感染拡大が起きるのは党中央の政策ではなく、地方政府の「不手際」のせいにされていることを挙げなければなりません。
 地方官僚は責任を問われて更迭されることを恐れ、過剰対策に走っているのです。

 事態はさらに悪化しています。
 「安定」政策としての「ゼロコロナ」政策は今、世界経済にも大きな影響を与え、その深刻度は増しています。備えが必要になっています。