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信仰は火と燃えて 14
羊どろぼう

 アプリで読む光言社書籍シリーズ、「信仰は火と燃えて」を毎週金曜日配信(予定)でお届けします。
 教会員に「松本ママ」と慕われ、烈火のような信仰を貫いた松本道子さん(19162003)の、命を懸けてみ旨の道を歩まれた熱き生きざまがつづられた奮戦記です。

松本 道子・著

(光言社・刊『信仰は火と燃えて―松本ママ奮戦記―』より)

羊どろぼう
 そのころ東京では、西川先生が日本への入国手続きの件で、入国管理局から事情聴取をされました。いまだ正式な国交がなかった時代に、天のみ旨を伝えるために、死を覚悟して玄界灘を越えてこられた先生でしたので、改めて正式な手続きを必要とされたわけです。

 私は大阪でその話を聞き、“私たちがしっかりしなければ!!”と心のひもを締め直して、夏の開拓に出発したのでした。私自身、朝早くから夜12時まで、訓練に来ている青年を連れて走り回りました。“電撃のように走りなさい”“電撃のように伝道しなさい”と柱や壁に書いて教会員たちを刺激し、私自身が先頭にたって伝道したのです。

 1963年から64年の間に、大阪教会は著しく発展し十数箇所に教会ができましたが、それらの人々を指導するためには、まず指導者である私が一生懸命汗を流し、外に出ていかなければなりません。ですから、いつも青年たちの先頭に立って、午前中はくず屋をし、午後は路傍伝道、訪問伝道、そして夜は他の教会の集会に参加したり講義をして、休む間もなく働きました。青年たちも、暑い夏の最中、扇風機もないのに、みんな苦労しながらよくついてきてくれました。

 こうして各地に教会が増えてくると、関西地区全体が集まる場が必要になってきました。そこで、月に一度、全支部教会が集まって大和動会をすることにしたのです。場所はクリスチャンセンターで、説教、講義、そして各支部教会から寸劇や独唱など、いろいろな出し物をやり、にぎやかに心情交流をするのです。そうして一日中楽しく過ごし、次の和動会の日を楽しみにしながら、来月は新しいメンバーを何人連れてこよう! と決意してそれぞれの教会へ帰っていくのでした。

▲和動会で(1964年7月)

 私が大切にしている活動の一つに、クリスチャンセンターの早天祈祷会がありました。これには5年間毎週欠かさず参加していたのです。イエス様は、神が選び導いてこられたイスラエル民族に、誰よりも先にみ言(ことば)を伝えようとされました。それと同様に、私は、2千年間殉教の道を歩きながら、イエス様を愛し、神様を愛してきたクリスチャンに、一番先にこの「統一原理」を伝えたいと思ったのです。

 そうした神様の願いを思う時、どんなにばかにされ侮辱されても、8回転んでも10回転んでも、11回目には起きて必ずクリスチャンに伝えてみせるという信念をもって、頭を下げて毎週祈祷会に通ったのでした。行くたびにいじめられて、泣きながら帰ることもたびたびでしたが、それでも忍耐して通い続けていくうちに、その中から次第に私の話に興味をもち、耳を傾ける人が出てきました。

 そうした5年目のある日のこと、いつものように青年を2人連れて早天祈祷会に行ったところ、帰りがけにいきなり「松本、マテー!!」と言って12人の牧師が私を取り巻いたのです。

 その牧師たちのただならぬ雰囲気に、私は恐ろしくて足がぶるぶる震えていました。150人もいるかと思われる信徒の前に立たされて、さも審判を受けているような不安に駆られ、すがるような気持ちで辺りを見回していました。

 一緒にいた青年は、私を見捨ててどこかに行って見えません。私はたった一人でした。目は意地でもって牧師たちをじっと見ていましたが、心の中では「天のお父様、急いで来てください。助けてください」と必死で祈っていました。その時、一人の牧師が、「お前たちは、朝鮮人、どん百姓の文鮮明を再臨のメシヤと信じているらしいじゃないか」と言ったのです。

 その言葉を聞いたとたん、それまでぶるぶる震えていた私の心はキュッと引き締まり、すっかり度胸がすわって牧師たちを見据えていました。憤りで髪の毛が逆立つほどでした。

 「いいえ、そんなふうには考えていません。私たちは、文先生をキリスト教会の使命を実現する、世界でナンバーワンの偉大な指導者と思っています。聖書に、ナザレからなんのよき者がいずるか、とあるように、イエス様が生まれたナザレという町は、東京の山谷のような貧困の町でした。そこのどん大工の息子を、あなた方はメシヤと信じているではありませんか。朝鮮人だ、どん百姓だといって人間を差別するなんて、牧師にあるまじきことです」

 私がこう言い返すと、彼は黙ってしまいました。すると、今度は他の牧師が、

 「この羊どろぼう! お前は人非人だ!」

 と言います。

 「私はあなたの羊を盗んではいません。羊を盗んだのは神様です。神様の言葉です。あなたがたは羊を預かる牧者であるのに、羊になんの霊的な糧も与えず、ひもじい思いをさせていたではありませんか。苦しんでいる羊が、神様の言葉によって喜びを与えられ、力を得て私についてきたのです」

 「このきちがい女! この女はクリスチャンの恥さらしだ。毎日駅前で、世界基督(キリスト)教統一神霊協会なんていう看板を持って、きちがいみたいに大きな声で叫んでいる」と、牧師が言いました。

 「キリストのため、世のために気が狂わずば禍(わざわ)いなるかな、とパウロは言っています。私は、神様のため、キリストのため、日本を救うために気が狂っているんです。神様が、やってほしいと言っている声が聞こえてくるんです。あなた方は、どうして気が狂わないで、そんなに冷静にしていられるのですか。あなた方は何もしないで、2千年の殉教者の血の上にあぐらをかいているではありませんか」

 こうして、私は彼らの感情的な攻撃に対して、一つ一つみ言で答えていきました。すると群衆の中から、私の背中をドンと突き飛ばした牧師がいたのです。私は振り向いて、

 「隠れてそんなことしなくてもいいでしょう。堂々と出てきて私を殴ってください。私を殺してもいいですよ。きょう、私は十字架にかかる用意がありますから。あなた方は、私が気違いのように神様を証(あかし)しているのを理由に私を裁いているのです。私がここで死んだら、神様とイエス様が証人になってくださるでしょう」

 すると他の牧師がまた言いました。

 「あんた、統一なんて言っているが、キリスト教の統一など人間にできるわけがない。とんでもないことだ」

 「そうです。人間の力でどうして統一できますか。私は、神様から統一しなさいという命令を受けたから、その願いに向かって努力しているのです。『からし種ほどの信仰があれば山動き海に入る』とイエス様は言われました。私たちは、神様がこの地上のすべての宗教を統一し、思想を統一して、世界を神様のもとに統一するんだという天の啓示を受けたから、それを信じてやっているのです。人間の勝手な気持ちでやっているのではありません。あなた方は長生きして、統一できるかできないか見ていてください。神様が共にいれば栄え、いなければ滅びるでしょう」

 私はドンと机をたたいて言いました。すると、

 「ああ、分かった。分かったから、ここでなくてほかのところで神様を証しなさい」と言うではありませんか。私の心は、もう義憤でいっぱいでした。

 「いいえ、神様が私に、クリスチャンセンターに行ってラッパを吹きなさいと言っているのですから、吹かなければ私に責任があります。私は天から啓示を受けて来ているのです。あなた方にばかにされても、いじめられても、あなた方に伝えたくて来ているのです。私は神様の言うことを聞くべきでしょうか、あなた方の言うことを聞くべきでしょうか。判断してください」

 私は目から涙をばらばら流しながら訴えました。そして、「分かった、分かった」といい加減な返事をする牧師に対して、

 「あなたはイエス様を愛しています。神様を愛しています。あなたは私を怒ったり、侮辱したりしていますが、あなたは本当はそんな人ではありません。それは、あなたの背後に潜(ひそ)んでいるサタンが言っているのです。あなたの目はまるで蛇みたいです。鏡に映して見てごらんなさい」と言ったのです。

 するとその時、西村という牧師が、「まあ松本さん、忍耐してください。みんなけんかしないでください。いいじゃありませんか。松本さん我慢してください」と言って、グレープジュースを持ってきてくれたのです。その牧師は今も健在です。

 私は、それを一息に飲んで気を鎮めると「先生、握手しましょう」と言いました。ここでけんか別れをしてしまったら、もう彼らとは永遠に離れてしまいます。それでは神様の願いに反すると思ったので、仲直りをしておこうと思ったのです。

 「あなた方はイエス様を愛しています。私もイエス様を愛しています。イエス様は敵をも愛しなさいと言われました。私たちは兄弟姉妹じゃありませんか。仲直りするのはイエス様が願っていることです。さあ、握手しましょう」

 そう言って、みんなの手をとって握手してしまいました。そして、「けさのけんかはなかったことにしましょう。西村先生、ありがとうございました」と、にこにこ笑いながらあいさつをして帰ってきました。

 なんという神様の導きでしょう。門を出ると、今度はうれし涙があふれきて、「天のお父様、ありがとうございました」と感謝の祈りをささげつつ、いつになくさわやかな気持ちで駅へと向かいました。この日は、電車の中でも教会に帰るまで泣いていました。この時の人たちは、今でも懐かしく思い出します。

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 次回は、「奇跡」をお届けします。


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