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~情報分析者の視点~

香港立法会選挙、真の民主派立候補できず

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、12月13日から19日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 習近平氏演説、文学・芸術への介入強化(14日)。プーチン氏、五輪開会式で訪中へ(15日)。金正日氏死去から10年、追悼大会に金正恩氏出席(17日)。駐日大使にエマニュエル氏、米国上院で承認(18日)。香港立法会選挙(19日)、などです。

 12月19日、香港立法会(国会に相当)選挙が行われました。
 翌20日午前中に議席や投票率が確定し、公表されています。その結果、予想はされていましたが、民主派は全敗。投票率は史上最低の30.2%となりました。過去最低だったのは2000年の立法選挙で43.6%でした。

 1997年の香港返還後初めて、選挙によって立法会から民主派が完全に消えました。
 当局は、選挙に不満を持つ市民が暴力的手段に出ることなどを警戒し、1万人の警官を動員しました。

 18日にはSNS上で「白票」での投票を呼び掛けたなどとして、羅冠聡元立法会議員ら海外に亡命した5人を選挙条例違反の容疑で指名手配しています。

 香港の選挙制度を説明しておきます。

 立法会の定数は90です。そのうち40議席は親中派の「選挙委員」といわれる人たちが選出し、さらに30議席は業界ごとに選出します。
 一般市民が選ぶのはわずか20議席にとどまり、立候補には「選挙委員10人の推薦」と「愛国者かどうかの事前審査」の“二つの壁”があります。

 結局、民主党など民主派政党は候補者を擁立することができず、自ら親中派でないと主張する「自称民主派」や「中間派」の候補者は十数人いたのですが、全敗しました。

 3月11日、中国の全人代常務委員会が香港立法会から民主派を一掃するための選挙制度改変を採択し、議席の枠や「立候補資格審査」を行う委員会が新設されました。
 「愛国者でない」と判断された人物は立候補できなくなりました。民主党や公民党など有力な民主派政党がいずれも候補を出せなかったのは、この二つの壁があまりにも厚かったからなのです。

 しかし今回の立法会選挙結果は、民主派を排除する新選挙制度が有権者から不信任を突き付けられた形になったという一面があるのです。
 当局は投票率アップのために、19日の公共交通機関の運賃を無料にしたのですが、効果はありませんでした。

 今後、香港当局による「愛国教育の高まり」が懸念されます。そして、この結果を受けて民主主義を否定する中国への批判が一層高まることが予想されます。
 来年3月27日には、香港特別区のトップである行政長官選挙があります。
 香港内外の民主派や欧米・国際社会による共産党独裁批判の動向を注目していきたいと思います。