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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米主導の民主主義サミット~準備不足、成果は未定

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、12月6日から12日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米国、北京冬季五輪・パラリンピック外交的ボイコットを表明(6日)。米ロ首脳、オンライン形式で会談(7日)。独・メルケル氏政界引退、別れの会見(8日)。米国、「民主主義サミット」を開催(9、10日)。テキサス「中絶禁止法」存続~米最高裁、政府の差し止め請求棄却(10日)、などです。

 米、バイデン政権の主導で「民主主義サミット」が9、10日と開催され、日本や欧州主要国、さらに台湾を含む111カ国・地域が招待され、オンライン形式の会議となりました。
 同会議は昨年の大統領選でバイデン氏が公約していたものでしたが、残念ながら成果は未定。新たな懸念も生まれ、バイデン政権の指導力に対する不安の声も上がっています。

BarBusによるPixabayからの画像

 開催の狙いは、中国やロシアなどの権威主義的国々に対抗して、民主主義陣営の結束を図ろうとするものです。主な議題は、①権威主義からの防衛、②汚職との闘い、③人権の推進などです。

 バイデン氏は開幕の演説で、近年、世界的に民主主義が退潮傾向にあると指摘し、「専制主義国家の指導者たちは、世界中で彼らの影響力を拡大し、今日の課題に対応する最も効果的な方法として抑圧的な政策と実践を正当化しようとしている」と危機感を示しました。そして、「民主的な国際社会として、われわれは法の支配、言論の自由、報道の自由、信仰の自由、全ての個人が固有に持つ人権を支持する必要がある」と訴えています。

 岸田首相もオンラインで参加し、「自由、民主主義、法の支配といった基本的価値を損なう行動に対して有志国が一致して臨むことが必要」と訴え、国際機関に約1400万ドルを拠出する方針を明らかにしました。

 開催に当たり問題点も指摘されました。
 まず、招待するかしないかの基準が不明確なのです。強権的な政治手法や人権侵害が問題視されるフィリピン、ブラジル、パキスタンなどは招待されましたが、トルコやハンガリーは招待されていません。その国の民主度よりも中国への対抗という判断基準が影響していると思われますが、招待されなかった国々が不満の声を上げています。

 中国、ロシアはこの会議を強く批判しました。
 特に中国は12月4日、「中国の民主」と題した白書を公表し、習近平主席が10月に開かれた党中央の会議で「民主主義は全人類の共同の価値だ」と強調したことを示し、ある国が民主的かどうかについて、①「人民に投票権があるかどうか」よりも、「人民が広く参加する権利を持っているかどうか」を見るべきであること、②「権力の運用プロセスが民主的かどうか」よりも「権力が人民の監督や制約を受けているかどうか」を見るべきであること―などの独自の基準を示したのです。
 その上で、「ある国が民主主義かどうかは、その国の人民が判断する。少数の国が判断すべきものではない」と西側諸国をけん制しました。

 バイデン氏は10日、閉幕に際して演説し、「世界各地に民主主義の花を咲かせる」と成果を自賛しました。そして、来年2回目のサミットを対面式で開催する考えを示しましたが、「共同声明」は出されませんでした。

 米紙WSJ(ウォールストリートジャーナル)電子版は9日、「サミットは始まる前から失敗だった」とする論評記事を掲載しました。
 その中で、対中包囲網を構築するのであれば、なぜ重要なシンガポール、スリランカ、バングラデシュなどが招待されなかったのか、と批判したのです。

 今回の会議を通じての印象は、やはり準備不足です。政治任用の高官ポストの不在が目立つのです。バイデン政権下で12月上旬までに承認を受けた高官ポストは必要な1200に対して、200足らずにとどまっているのです。同時期のブッシュ、オバマ両政権の半分程度に過ぎないのです。