https://www.kogensha.jp/shop/list.php?category=001018

世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国の朝鮮戦争映画『長津湖』が歴代首位の興行収入

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、11月22日から28日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 韓国の全斗煥元大統領死去、90歳(23日)。日本政府、初の石油国家備蓄放出へ、米英などと連携(24日)。ドイツ社会民主党など3党が連立新政権発足で合意(24日)。中国の朝鮮戦争映画『長津湖(ちょうしんこ)』が歴代首位の興行収入に(26日)。南アフリカ共和国で新変異株(オミクロン株)免疫回避の恐れ(26日)、などです。

 中国映画『長津湖』が、11月26日時点で歴代首位の興行収入となったと国営新華社通信が報じました。

 同作品は朝鮮戦争を扱ったもので、中国人民志願軍と米軍との戦いを描いています。現在の米中対立を背景にして、中国政府・共産党の国威発揚の手段として利用し、国内の結束強化を狙っていると見られます。

 興行収入は56億9500万元、日本円で約1020億円を記録しました。ちなみに『鬼滅の刃』の興行収入は、今年5月で約400億円を突破したといわれています。

 『長津湖』は10月上旬の国慶節(建国記念日)連休に合わせて公開されたのですが、国営新華社通信によれば、11月25日時点で興行収入歴代トップになっています。
 2カ月にも満たない期間での記録です。今後さらに伸びていくでしょう。

 朝鮮戦争では、中国が人民志願軍を派遣。司令官は彭徳懐でした。当時は、建国間もないころであり、国力も不十分な状態で、参戦できるのかとの懸念の声に、彭徳懐は「解放戦争の勝利が数年伸びたつもりでやればよい。もし今参戦しなければ、米国に鴨緑江と台湾に張り付かれ、いつでもわが国への侵略を開始するための口実を与えることになる」と述べています。

 毛沢東は人民解放軍を「志願軍」として派遣することを決定。彭徳懐は体調不良を理由に出征を拒否した林彪に代わって「中国人民志願軍」(「抗美援朝義勇軍」)の司令官に就きました。この戦争で毛沢東の長男・毛岸英が亡くなっています。

 映画の題名となった「長津湖」は、北朝鮮東部にあります。1950年冬に米海兵隊が中国側の攻勢に遭って撤退を余儀なくされた場所です。
 映画では兵士が極寒に耐えながら物量で勝る米軍相手に英雄的に戦う姿を描いており、画面には北朝鮮や韓国の軍隊や市民は一切出てきません。

 一方、韓国では朝鮮戦争での中国人民志願軍の活躍を美化する中国映画への拒否感が非常に強くあります。
 今年9月には『長津湖』と同じような朝鮮戦争を扱った中国映画が市民団体などの強い反対に遭って配給中止に追い込まれました。

 最近発表された日韓共同での世論調査(「読売新聞」や「言論NPOと韓国の東アジア研究院」など)によれば、韓国での中国への印象が良くないとの回答が15%ほど急増し約75%になり、日本への否定的印象を上回っています。

 中国共産党の国内統制、対外強硬路線は周辺諸国の拒否感を確実に増大させています。