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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

韓国大統領選、保守・尹錫悦候補優勢

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、11月15日から21日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米中オンライン首脳会談(15日)。竹島に上陸 韓国の警察庁長官(16日)。BLMデモ3人死傷 白人男性に無罪(19日)。韓国大統領選世論調査 尹錫悦(ユン・ソギュル)候補優勢(19日)。党警察トップに習主席の側近起用の報道(20日)、などです。

 韓国大統領選の与野党候補者は、最大野党「国民の力」の尹錫悦候補決定により出そろいました。与党「共に民主党」李在明(イ・ジェミョン)候補者との事実上の「一騎打ち」となります。現時点では、国民の力の尹錫悦候補が李在明候補を一歩リードしています。この状況は各種世論調査においてほぼ一致しています。

 直近の韓国世論調査会社「ギャラップ」が11月19日に発表した調査結果によれば、支持率で尹錫悦氏が42%、李在明氏が31%。10ポイント以上の差が開いており、10月下旬の調査では李氏が尹氏を3ポイント上回っていたことを考慮に入れれば、両者の差は開きつつあると言ってもいいでしょう。

 背景には何よりも文在寅政権に対する不満があります。現政権下の公職者の不祥事、不動産価格の高騰など、野党への政権交代を求める世論はかねてから50%を超えているのです。5日に野党候補として尹氏が決定したことを受け、政権交代への期待が一気に高まったと言えるでしょう。

 しかし、大統領選挙は来年3月です。この間に何が起きるか分かりませんので予断は禁物です。尹氏は今、公捜処(高位公職者犯罪捜査処)による捜査を受けています。検事総長時代に与党政治家の立件を狙って野党議員に告発を促すよう検事に命じたとの疑惑がかけられているのです。本人は全面否定しています。

 李氏もまた大きな疑惑の渦中にあります。城南(ソンナム)市長時代の都市開発疑惑です。11月18日には国会が選ぶ特別検察官による捜査を受け入れる考えを示しました。市長時代に手掛けた「大庄洞」都市開発で民間企業に過大な利益を与えた疑いによるものです。また、自身に関わる裁判費用をSNSに虚偽記載し公職選挙法に違反したとして、市民団体が検察に告発しています。

 両候補の外交・安保政策などについて説明を加えておきます。尹氏は11月12日、外国メディアとの記者会見で外交・安保についての見解を明らかにしました。対日関係については、元徴用工や元慰安婦問題を念頭に「韓日が両国の国益に合うように協力していけば、歴史問題を巡っても互いにうまく解けるはずだ」とし、金大中元大統領・小渕恵三元首相による「日韓共同宣言」(1998年)を発展させると表明しています。「宣言は韓日が未来に向かっていこうというものだ」と評価したのです。

 そして、文在寅政権の対日政策について「韓日関係を国内政治に利用した」と批判し、「歴史問題と経済、安保協力を網羅した包括的解決を模索する」と語ったのです。
 文在寅大統領が現在提案している終戦宣言には「在韓米軍撤退や兵力削減の世論が韓国で起き得る」として、反対を表明しました。

 一方、李氏は貧困家庭に生まれ、少年工として苦学して弁護士になりました。公約として全国民に現金を支給するベーシックインカム(最低生活保障)を目玉公約に掲げ、若者には特に手厚く支給する考えを示していますが、「財源の裏付けが乏しいバラマキ」との批判を強く受けています。与党内では主流派である親文在寅勢力との足並みの乱れもあります。

 米国との関係にも影響必至の発言もあります。李氏は11月12日、ソウルで米上院議員(ジョン・オソフ氏)と面談した際、1905年に日本の桂太郎首相と米国のタフト陸軍長官が結んだ「桂・タフト協定」に触れ、韓国が日本に併合されたのは米国が桂・タフト協定によって承認したからだと語ったのです。野党側からは、外交的な礼を欠いていると批判の声が強く上がりました。

 韓国大統領選の結果は、今後の日韓関係、アジア、世界の動向に大きな影響を与えることになりますので、注目していきましょう。