https://www.kogensha.jp/shop/detail.php?id=4040

世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

バージニア州知事選~共和・トランプの風が吹く

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、11月1日から7日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)、首脳級会合がスタート(1日)。米バージニア州知事選の投開票、共和党ヤンキン氏が当選(2日)。中国10年後に核弾頭千発、米国防総省が警戒(3日)。韓国大統領選、「国民の力」候補に前検事総長(5日)、などです。

 米国のバージニア州知事選で共和党候補が逆転勝利しました。
 投開票は2日。バイデン政権、民主党は2022年の中間選挙戦略を根本的に見直さなければならなくなっています。

 バージニア州は首都ワシントンと接する都市圏と保守的な南部の風土が混在し、共和党のイメージカラーの赤と民主党の青が混じった「紫色の州」と呼ばれてきましたが、近年は民主党が各種選挙で勝利しており、州知事選で敗れるのは12年ぶりのことです。

 このたびの選挙で共和党候補のグレン・ヤンキン氏(54歳)が、民主党候補の前州知事テリー・マコーリフ氏(64歳)を下して初当選しました。ヤンキン氏には政治経験はありません。

 有権者がバイデン氏の政権運営に不満を強め、共和党支持に回ったものと見られています。
 原因は、アフガン駐留米軍の撤収を巡る失策と民主党の看板二大法案で民主党内をまとめきれず、指導力不足が露呈したことが挙げられます。

 選挙戦は、当初はマコーリフ氏優勢でした。昨年の大統領選でもバイデン氏がトランプ氏に約10%差をつけて勝利していたのです。

 マコーリフ氏陣営は「ヤンキン氏はトランプ氏気取り」などと批判し、反トランプ票を糾合する戦略をとりました。応援に来たオバマ元大統領も「われわれは混乱の時代に戻ることはできない」と訴えたのです。

 転換点は「アフガンからの米軍撤退」の混乱によるバイデン大統領の支持率の急落です。直近の世論調査では42%まで低下し、不支持が上回っているのです。

 さらにバイデン氏は、看板公約である大型経済対策法案の予算規模を1兆8500億ドルに半減させる妥協策を打ち出して打開を図りましたが、党内穏健派や重鎮議員から合意を得られませんでした。
 大型インフラ整備法案も、財政拡大に固執する下院の民主党左派の条件闘争に遭い、棚上げ状態になっています。

 一方、ヤンキン陣営はトランプ色を薄めました。「本人からは支持を得ながら」選挙戦では終始、同氏から距離を置いていたのです。
 11月1日夜の住民集会でも、前大統領の名前を一切口にせず、教育、税金、治安など「食卓の話題」に集中しました。

 特にヤンキン氏は、学校教育で「批判的人種理論(CRT)」の導入禁止を訴え続けたのです。

 CRTとは、人種差別や白人至上主義が教育や司法などの社会制度に構造的に組み込まれ、差別や格差を固定化させたという理論をいいます。今、保守層は進歩的な教師らが学校教育に浸透を図っているとの批判を強めています。その是非が全米の論争になっているのです。

 米大統領選挙から1年がたちました。米国では今も「不正選挙」の主張を信じる人は多く、各地で票の再集計が行われています。
 アリゾナ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ジョージア、ミシガンの5州です。新しい保守の風が起こりつつあるのです。