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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

南北の動きに米国が「重大な関心」

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、10月11日から17日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 タリバン、EU(欧州連合)・米国代表と会談(12日)。北朝鮮で飢餓の恐れ、国連特別報告者が警告(13日)。米国CIA(中央情報局)長官が訪韓、文在寅大統領と会談(15日)、などです。

 米国CIA長官のウィリアム・バーンズ氏が10月15日、訪韓し、文在寅大統領と会談し、朝鮮半島情勢などについて意見交換がなされたと報じられました。
 17日からはCIAなどの情報機関を統括するアブリル・ヘインズ米国家情報長官も訪韓して朴智元国家情報院長らと会談しました。

 さらに米国務省のネッド・プライス報道官は14日、北朝鮮の非核化を巡る米朝交渉再開について「北朝鮮に具体的な提案をした」と記者会見で明らかにしており、先週末の米韓両国の動向は、南北関係の「新たな展開」に対して米国が強く反応していることを示しています。

 中心にあるのは、文在寅大統領が先の国連総会一般討論演説(9月21日)で提言した「終戦宣言」提案です。朝鮮戦争の終戦宣言を「南北米、または南北米中の4者」で行うことを提案したのです。昨年も提言しましたが、今年は具体的な国名を挙げました。

 「終戦宣言」の意味は大きいのです。北朝鮮が非核化に取り組む代わりに米側が北朝鮮に与える「体制の安全の保証」の一案として提案されてきた経緯があります。一つの譲歩案です。

 文在寅政権のこの踏み込みは、4月以降の文氏と金正恩総書記の間で交わされてきた往復書簡があり、「米軍のアフガン撤退」に関する金与正氏の8月10日発言があると見るべきでしょう。
 与正氏は米側に韓国からの兵器撤去を要求した上で、「米軍が南朝鮮に駐屯している限り、情勢を悪化させる禍根は絶対に除去されない」と強調したのです。露骨に在韓米軍の撤退を要求しています。

 さらに与正氏は9月24日、「終戦宣言は興味ある提案で良い発想だ」と述べ、翌25日にも、将来の終戦宣言や南北首脳会談に前向きとも取れる談話を発表したのです。

 文政権は素早く動いています。鄭義溶外相は米紙ワシントン・ポスト(9月30日付)のインタビューで「北朝鮮は対米不信からミサイルを増強している。米国は北朝鮮に対話に向けたインセンティブを具体的に説明すべきだ」との主張を展開し、10月1日、「(対北)制裁緩和も検討する時期になった」と発言しました。そして10月5日、鄭氏は訪問先のパリで、ブリンケン米国務長官と会談し「終戦宣言」の必要性について説得しています。

 「米軍アフガン撤退」を契機に、南北連携して米国を説得している構図が見えてきます。説得内容は、まず「終戦宣言」。続いて制裁の段階的解除と北朝鮮の非核化プロセスに入るというものです。来年の大統領選挙を見据えながら文在寅政権は賭けに出ているとも言えるでしょう。

 米国は重大な関心と懸念を持っていると見られます。そのための米国情報機関トップの訪韓なのです。バイデン政権がどのように判断するのか注目していきたいと思います。