https://www.kogensha.jp/shop/detail.php?id=4040

信仰と「哲学」85
コロナ禍世界の哲学(9)
「新しい資本主義」と倫理資本主義

神保 房雄

 「信仰と『哲学』」は、神保房雄という一人の男性が信仰を通じて「悩みの哲学」から「希望の哲学」へとたどる、人生の道のりを証しするお話です。同連載は、隔週、月曜日配信予定です。

 9月8日、岸田文雄氏は自民党総裁選に臨むに当たり記者会見で、「新自由主義から転換し、成長と分配の好循環を実現するため、『国民を幸福にする成長戦略』『令和版所得倍増のための分配施策』などを進めます」と述べました。

 コロナ禍で多くの人々が苦しみの中にありますが、それは特に経済的困窮者に集中的に現れました。その結果、経済的利益を犠牲にしてでも「倫理的であるべき」との強い声が、それも地球規模で広がりました。

 この点についてマルクス・ガブリエル氏は次のように述べています。

 「なぜならコロナの流行に対する当初の世界的に一致したリアクションは、私が言うところの『ウイルス学的義務』でした。『ウイルス学的義務』とは、死亡率をあげないためにどんな経済的代償をともなっても何でもしなければならないという概念です。どんな方法でもいいからウイルスを撲滅するためです。これは道徳的義務として非常に成功しました。そして民主主義あるいは一般的な資本主義と道徳観の親和性について何らかの教えをくれました。つまり資本主義は道徳律を、驚くほど尊重できるという発見があったのです。ですから今夏のことは気候危機への備えともなると思っています」(『新時代に生きる「道徳哲学」』NHK出版新書 76~77ページ)

 道徳的であることと資本主義であることは両立しない。資本主義は非道徳的、利己的欲望によって支えられ、発展するとの一方的な考え方は間違っているとの見解です。

 氏は、ウイルス感染が短時間のうちに地球規模に広まったという事実は、当然、新自由主義的資本主義の結果であると明言しています。
 新自由主義的資本主義は利潤追求を最優先します。それは各国間の人類の協調はモノと資源の不公平な配分によってなされるという考え方を前提にしているのです。不公平、格差を前提とする非倫理的な資本主義であるというのです。

 岸田首相は、政治理念として「新しい資本主義」の旗を掲げています。
 資本主義の維持、発展には「成長と分配」が必要ですが、「分配」に比重をかけるというものです。

 「小泉内閣以降の新自由主義的政策は、わが国の経済に成長をもたらす一方で、持てる者と持たざる者の格差が広がりました。成長だけでは人は幸せになれません。成長の果実が適切に分配されることが大事です」(9月8日の会見)と述べました。

 マルクス・ガブリエル氏はまた、「21世紀は倫理資本主義の時代です。私の売り込み文句は、世界で最初に持続可能で、かつ倫理的な資本主義体制を造った国が、21世紀でもっとも豊かなスーパーパワーになるだろうということです」(同180ページ)と述べています。

 コロナ禍世界で見えてきた未来を展望するための哲学の骨格が見えてきました。それは文鮮明総裁が提示された「共生・共栄・共義」社会であるということです。