青少年事情と教育を考える 170
凶悪事件と愛着障害

ナビゲーター:中田 孝誠

 先日、都内の地下鉄構内で、会社員の男性が硫酸をかけられるという事件があり、25歳の大学生が逮捕されました。

 この事件を伝えた記事の中で、社会病理を専門にする大学教授が「幼少期の“愛着障害”」が根底にあった可能性について語っているのが目に留まりました(8月31日、東スポWeb)。

 容疑者はすでに両親をなくしていますが、教授はこれまで多くの凶悪犯とやりとりした経験から、幼少期に十分な愛情をかけられて愛情の“貯金”があれば、その後の人間関係の問題にも対応できたはずだと述べています。

 愛着は本欄でも取り上げたことがありますが、子供が乳幼児期に特定の養育者(特に母親)との間にできる情緒的関係性です。
 母親は子供を守ろうとし、子供は母親を求める。それが「いつでも帰ることができる(安全基地)」という安心感を子供に与え、自律性や共感性など健全発達の基礎になるといわれています。つまり、将来にわたって影響を与えるというわけです。

 もちろん今回の事件について、詳しいことは分かっていませんので、容疑者に愛着障害があったかどうか拙速な判断はできません。前述の教授の指摘もあくまで過去の経験からのものです。
 ただ、これまでの研究からも幼少期に父母から愛されることの重要性は明らかです。

 例えば、ちょうど20年前の2001年、最高裁判所の家庭裁判所調査官研修所が「重大少年事件の実証的研究」という報告書を発表しました。重大事件を起こした少年10人の家庭環境や成長過程を分析したものです。

 それによると、少年たちの家庭に「夫婦関係の不和」「親の愛情の不足」「虐待」「親が自分を受け止めてくれないという気持ちを持つ」などの問題があることが指摘されました。

 私たち一人一人の生活実感からも、愛される経験が大切であることは誰もが感じることでしょう。
 近年は、家族関係でも“個”が強調される風潮ですが、コロナ禍の中、親子の愛情関係の大切さを見つめ直す時だと思います。