コラム・週刊Blessed Life 176
21世紀の人類はどこへ向かうのか

新海 一朗(コラムニスト)

 イスラエルの歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリ(1976~)が、『サピエンス全史』(2016)、『ホモ・デウス』(2018)を世に出し、世界の知識人たちを大いに啓発し、刺激を与えたことは記憶に新しいところです。
 いろいろなことを考えさせてくれる示唆の多い内容であることは、一読すれば納得できます。

 今回は、ハラリの言う人類の歩みを振り返りつつ、21世紀の人類がどこへ向かうのか考えてみたいと思います。

 ハラリの言説を要約すれば、以下のとおりになります。

 およそ20万年前に登場した人類種であるホモ・サピエンスは、他の六つの異なるヒトの種(ネアンデルタール、その他)を駆逐し、約7万年前に、現生人類として人類歴史の一歩を刻んだ。
 ホモ・サピエンスを特別な存在としての人間にしたのは、彼らの「認知能力」(高度な精神作用、万物の霊長)にあった。それが、人間同士の大規模な協力体制を築き上げる能力となり、他の追随を許さない力となった。

 農業を中心として暮らしてきた人類であったが、500年前に起きた科学革命が経済成長の世の中をつくり、そうして資本主義経済が誕生した。
 科学革命の特徴は、何と言っても、「知識」という資源を手に入れたことである。人類の生活に有用な知識は、経済のパイを大きくすることに役立った。
 科学の知識は、事物の観測と数式化であり、それによって、イデオロギー上の変革が起きた。すなわち、「一神教」から「人間至上主義」への変化である。

 農業の時代は有神論であったが、科学革命は人間至上主義の宗教、つまり、人間が神に取って代わり、人間を崇拝する宗教が誕生する。自由主義、社会主義、共産主義、ナチズム、進化論、全て人間至上主義の宗教に他ならないと、ハラリは言います。

 一応、21世紀の現時点において、自由主義が勝利を収めているように思われますが、課題は大きいと指摘します。

 人類はますます、「戦争」「飢饉(ききん)」「疫病」のひどい死神に憑(と)りつかれていて、その反対である「不老不死」「至福」「神性」に向かう新たな努力を増大させなければならないと言います。

 言葉を換えて言えば、「ホモ・サピエンス」から「ホモ・デウス」に人類そのものが昇華を果たすべき時代になりつつあるのではないかということです。
 結局、ホモ・サピエンスは「賢い人間」というラテン語の意味のとおり、「知的人間」「知性を持つ人間」であり、知性がもたらす知識による科学革命の進歩までを暗示しており、人間至上主義の限界を示しているということになります。

 そうすると、これからの未来、人類の幸せを考えるならば、人間はそれ以上のレベルに向かうべき運命を背負っているという見方が可能であり、それが「ホモ・デウス」(神のような人間)の時代なのです。神的人間に向かう以外に「至福」の未来を手にすることはできないだろうという結論です。

 それが人類の未来を幸福で明るいものにする道であると考えるならば、なるほど、ハラリの洞察は卓抜な啓示性を帯びていると言えるかもしれません。