愛の知恵袋 150
すがすがしい生き方

(APTF『真の家庭』271号[20215月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

球児たちの熱き戦い

 202141日。甲子園球場で第93回選抜高等学校野球大会の決勝戦が行われ、東海大相模高校(神奈川)と明豊高校(大分)の熱戦が繰り広げられました。

 最終回のぎりぎりまで22の接戦で、実に良い戦いでした。選手たちの家族・友人、そして応援している地元県民たちは言うに及ばず、全国の高校野球ファンたちは戦いの一進一退にハラハラし、数々の好プレーに拍手を惜しみませんでした。

 春休みのこの期間、高校球児たちの奮闘ぶりがテレビで全国中継されることによって、新型コロナのために花見すら満足にできず、重苦しかった日本の社会に、一服の清涼剤を得たような感動を覚えた人が多かったのではないでしょうか。

なぜ涙が出るのだろうか

 さしたる野球ファンでもない私ですが、初戦で勝利した地元の明豊高校の善戦ぶりに刺激されて、準々決勝、準決勝、決勝戦と久しぶりに最後まで観戦しました。観戦している中で、なぜかわかりませんが、幾度か涙が出ました。

 私が涙もろいからなのかとも思いましたが、いろんな人に尋ねてみると、「いつも高校野球を見ると胸が熱くなる」とか、「涙が出る」という人が多いのです。

 プロ野球にも熱気があります。ファンならば勝ち負けに一喜一憂します。そこまでは同じなのですが、高校野球にはプロ野球とは何か違った感動があるのです。

 この違いは何なのだろうか…。じっと考えてみました。

 なぜ、高校野球を見ると涙が出てくるのであろうか?

 私なりに感じたその要因をいくつか挙げてみました。

 まず第1に、選手たちが大人ではなく、高校生という清純な若者たちであるということが一つの大きな要因でしょう。

 第2に、プロ野球は職業野球であり、球団の収益や選手の年俸などが絡んできますが、高校野球の選手たちは無報酬で利害打算と関係なく、純粋に競技に打ち込んでいるところが気持ちが良いのでしょう。

 第3には、ルールをきちんと守って正々堂々と戦い、勝っても負けても潔く、常に謙虚で礼儀正しい姿が実にすがすがしいのです。まさに、スポーツマンシップの鑑(かがみ)です。

 そして最後に、チームが完全に一体となり、各人が青春を爆発させ、持てる全ての力を出し切って戦いぬく姿に胸を打たれるのです。

目的が正しく、方法も正しくなければ

 スポーツマンシップの核心である「正々堂々」という点では、個人でも、企業や団体でも、そして国家でも同じような事が言えるかもしれません。

 たとえば、ある人物が成功して富や名声を得たとしても、正しい手段と努力で成功した人は尊敬されますが、卑劣な手段で得た地位ならば、やがて信頼を失い失脚します。

 また、ある企業や団体が急速に発展して大きくなったとしても、内外で不正が行われていれば、いつかは問題が表面化して信用を失い、衰退していきます。

 国家も同様です。ある国が急速に発展して大きな勢力圏を築いたとしても、正しい方法と努力で築かれた繁栄ならば長く続きますが、国民を抑圧したり、国際間のルールも無視して財力や軍事力によって横暴な方法で拡大した国は、世界からの支持を得られず、いずれは崩壊します。人類の歴史はそれを如実に証明しています。

 この世界には、目には見えないが、そのような厳然たる法則があるような気がします。

すがすがしい生き方をしよう

 ところで、以前、ある会社の人事担当者だったという人と話したことがありますが、社員採用に当たっては学力だけでなく、高校や大学時代に部活やボランティア活動を熱心にしてきたという経歴の持ち主は積極的に採用してきたと言っていました。特に、野球部出身者などは優先的に採用したというのです。

 理由を聞いてみると、「彼らの持つチームワーク力、勝負への情熱、責任感、試練にへこたれない忍耐力などが、実社会では大きく役立つからです。それに…、そういう人たちには不正を働く人が少ないんですよ」ということでした。

 もちろん、職業にはあらゆる職種があり、それぞれに必要とされる性質や能力は違うのでしょうが、どんな分野で生きるにしても、「誠実さ」や「熱意」といった素質は、最も大切な要素なのではないでしょうか。

 私達は、裕福であろうと質素であろうと、自分の良心に恥じないような生き方、そして、人々から信頼されるようなすがすがしい生き方をしたいものです。

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 次回の配信は6月4日です。