世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

北朝鮮から各国外交官が脱出

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は3月29日から4月4日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 香港・新選挙制度を全人代常務委が可決(3月30日)。在北朝鮮ロシア大使館、各国外交官の大量脱出を公表(4月1日)。台湾、特急電車脱線で50人死亡(2日)。中韓外相がアモイで会談開催し対北朝鮮で協力確認(3日)、などです。

 北朝鮮の現状は、経済的に「三重苦」にある、といわれています。続く国連安保理(国際連合安全保障理事会)の制裁、新型コロナウイルスの感染を防ぐための中朝国境封鎖、そして昨年夏から秋にかけての集中豪雨と台風による被害のためです。

 しかし徹底的な統制によりその窮状が外に漏れることはほとんどありませんでした。しかし4月1日、在北朝鮮のロシア大使館が北朝鮮の「実情」を想像し得る情報を公表したのです。

 その内容は、平壌に駐在する各国の外交官や国際的な人道組織の職員が大量に国外に脱出しているというものです。
 その背景は、新型コロナの感染拡大に対応したと見られる「前例のない厳しい全面的な制限措置」が導入されることにより、医薬品など深刻な物質欠乏が起きているからであると指摘されています。

 さらに、平壌を脱出したロシア人を含む38人が北朝鮮との国境に近い中国の都市にあるホテルで2週間の隔離を終え、北京や上海経由で母国に戻ることになると述べています。

 ロシア大使館はまた、「英国、ベネズエラ、ドイツ、イタリア、ナイジェリア、パキスタン、ポーランド、チェコ、スウェーデン、スイス、フランスの代表部の建物に鍵がかけられた」と伝えました。

 平壌では現在、中国やロシア、キューバなど9カ国の大使が残って業務を続けていますが、その人員は最小限に絞られており、北朝鮮に滞在する外国人の総数も290人未満に減っているといいます。そして、医薬品を含む物資の欠乏で「健康問題を解決する可能性がない」と窮状を訴えたのです。

 ロシアの通信社は、北朝鮮の物資欠乏について、「新型コロナの影響が出ている」との専門家の見方を伝えており、ロシア下院国際問題委員会のノビコフ第一副委員長は、新型コロナの感染が広がっているこの時期に北朝鮮に対して国際的な制裁が課せられているのはとんでもないことだと述べたことを報じました。

 時期を同じくする2日、ワシントン近郊のメリーランド州の米海軍兵学校で日米韓3国の国家安全保障会議(NSC)責任者による会合が開催されました。上述のロシア大使館報告は、この会談に合わせたのかもしれません。

 会談は米国が主導し、今進めている対北朝鮮政策の見直しについての協議が行われたのです。参加者はサリバン米大統領補佐官、北村滋・国家安全保障局長、徐薫・韓国国家安全保障室長です。

 会談後の共同声明では、日米韓の緊密な連携のもと、北朝鮮の核・ミサイル開発問題に対処する。国連安保理決議を国際社会が完全に履行することが必要。南北離散家族の再会と拉致問題の迅速な解決の重要性の確認などが明記されました。中国に対する名指し批判は文言化されませんでした。

 今後、限界状況下にある北朝鮮の動向が注目されます。