世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

注目される英国の外交・防衛計画転換

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は3月22日から28日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 英国、新たな外交・防衛10年計画を公表(22日)。中国、EU(欧州連合)側への報復制裁を発表(22日)。皇位継承の在り方の有識者初会合(23日)。北朝鮮~弾道ミサイル2発発射=約450km飛行(25日)。米英電話首脳会談(26日)、などです。

 英国の対中国政策が大きく転換しています。
 キャメロン政権時代の2015年には、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に主要国で最初に参加表明をしました。当時の親密な関係を考えると隔世の感があります。背景にあるのは中国による香港民主派圧殺、新疆(シンチャン)ウイグルでの人権侵害、コロナ禍での戦狼外交(攻撃的な外交)があります。そしてEUからの離脱により独自の外交政策の展開が可能になったことも挙げることができるでしょう。

▲英国・ロンドン

 今年6月に開催する主要7カ国(G7)の議長国は英国です。
 ジョンソン首相はG7首脳会議にインド、オーストラリア、韓国の首脳を招待しています。「自由で開かれたインド太平洋」を実現するための歓迎すべき計らいであると言えるでしょう。また、年内に最新鋭の空母をアジアに派遣し、わが国の海上自衛隊などとの共同軍事演習に参加する予定です。

 防衛計画でも積極的姿勢が目立ちます。英国の国防省は3月22日、2030年までの外交・安全保障の方針を発表しました。
 4年間で850億ポンド=およそ12兆7500億円を防衛装備に支出し、核弾頭の保有数を増やし、古くなった戦車や戦闘機を最新型に更新。他にサイバー戦・電子戦の強化、ドローンの大群での運用、自動掃海技術といった無人兵器分野を強化し、宇宙空間での防衛技術やAI(人工知能)などの研究・開発にも資金を充てる計画です。
 背景にあるのは中国とロシアの脅威です。

 米国との連携も注目に値します。
 3月26日、バイデン大統領とジョンソン首相の電話会談が行われました。その中でバイデン氏は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗するために、民主主義諸国で同様の枠組みを構築すべきと提案したのです。
 バイデン氏は、「中国が『一帯一路』を通じて行っている競争について(ジョンソン氏と)話し合った」とし、「民主主義諸国も似たような構想を作り、支援を必要としている世界中の社会を支えていくべきだと提案した」と述べています。インフラ投資などに焦点を当てた構想です。

 英首相府によると、電話会談では他に、中国・新疆ウイグル自治区の人権弾圧に対応するために米英や欧州連合などが中国に課した制裁についても協議したといいます。
 米中「新冷戦」構造が徐々にその姿を現し始めました。