2025.04.30 22:00
内村鑑三と咸錫憲 21
「信仰は世界をひっくりかえす」
魚谷 俊輔
韓民族選民大叙事詩修練会において、内村鑑三が近代日本の偉大なキリスト教福音主義者として紹介され、その思想が弟子である咸錫憲(ハム・ソクホン)に引き継がれていったと説明された。
咸錫憲は文鮮明(ムン・ソンミョン)総裁が若き日に通われた五山学校で教師を務めた人物だ。そこで内村鑑三から咸錫憲に至る思想の流れを追いながらシリーズで解説したい。
前回は、咸錫憲がついに韓国史の基調をなしている「苦難」の積極的な意味を見いだしたところまで解説した。
それは、韓民族の苦難には「ハナニム(하나님/韓国語で“神様”の意味)の摂理」としての贖罪(しょくざい)的な意味があったという気付きなのだが、それがさらに人類に対する韓国人の使命という考えに発展していく。
この頃の韓国は、ようやく日本の支配から解放されたかと思ったら、6・25動乱(朝鮮戦争)の戦火に見舞われ、「漢江の奇跡」といわれた経済発展が起きる前の時代である。
常識的には、韓国人に世界的使命があるなどとは誰も考えない時代であった。しかしそれを信仰でひっくり返せと咸錫憲は言ったのである。
「韓国が世界の韓国になり、アフリカ黒人が世界列強を鼻であしらうことはなにを意味するか。今まで弱肉強食を根本原理としてきた文明が、次第にその目標が虚像であることを知り始めた。これから先、歴史の方向は百八十度変わるだろう」(『意味から見た韓国歴史』、372ページ)
「われわれが人類の将来を決定することも、われわれに能力があるからではない。摂理が命ずるからだ。歴史的必然だということだ。世界の不義の結果を我々が負わされているゆえ、それを洗い清める人は我々の他にいない。だから、我々の使命だというのだ」(同、377~378ページ)
「負債の清算は我々だけができる。過去においても新しい歴史の芽はつねにごみだめから生えたが、将来の歴史ではことにそうだ。それゆえ韓国、インド、ユダヤ、黒人、これらが抑圧の不義の苦難から勝利を得て本来の役割りをはたすようになれば、人類は救われるであろうし、でなければこの世界は運命が決まったも同然である。…全人類の運命がわれわれにかかっているというのはこのためである」(同、378ページ)
イエスは地上においては取るに足らない小さな存在であり、虐げられ、あざけられて十字架の死を遂げた。
しかし、その苦難によってイエスは人類の罪を贖(あがな)い、全人類に救いをもたらした。
これと同様に、世界史においては取るに足らない弱小国家である韓国が、その受難によって世界の不義を背負い、帝国主義によって世界を踏みにじってきた列強・大国を救う存在になるという「逆転のロジック」である。
「信仰は世界をひっくりかえす」(同、371ページ)とはまさにこのことを指している。
ここに至って咸錫憲は師である内村鑑三の思想から独立し、統一原理の再臨論における韓民族の使命の理解に近づいたと言ってよいだろう。