夫婦愛を育む 144
道徳の教科書に載った推理小説

ナビゲーター:橘 幸世

 知人に勧められたのがきっかけで、英米の(主に)推理小説を読むようになりました。すっかりはまり、趣味と実益を兼ねて楽しむことはや四半世紀(英語をマスターしたい人にはお勧めです! 会話力もアップしますよ)。

 中には涙を誘うものがあります。事件の引き金となる人生の厳しさや悲哀に涙するのではなく、登場人物の弱者を救おうとする崇高な魂に触れ、心洗われ涙するのです。
 そこに、2000年のキリスト教精神の積み重ねを感じざるを得ません。

 1980年代後半、ニューヨークにいた時も感じましたが、アメリカは悪のレベルも桁違いだけれど、善のレベルもすごい、と思います。

 無実の罪で死刑もしくは終身刑となった人たちの冤罪(えんざい)を晴らし解放しようと奔走する牧師兼弁護士を主人公とした小説に出合いました。

 弁護料は一切取らず(冤罪が晴れて国から何百万ドルのお金が元囚人に払われても1セントも受け取りません)、スタッフわずか3人の非営利団体で寄付だけでやりくりしています。

 主人公は薄給(牧師のそれよりも)で、経費節約のため飛行機は滅多に使わず、長距離を車で移動し、刑務所で囚人(依頼者)に面会したり犯罪現場を訪れて調査したりします。
 それは気の遠くなるような長い道のりであり、忍耐に忍耐を重ねて何年もかけてたどり着けるかどうかも分からない闘いです。

 もちろん彼は神からの召命と感じてそこに全てを投入しているのですが、それでも、現代のアメリカでこんな生き方をしている人がいるのか、と驚愕(きょうがく)しました。そして早く後書きで確認したくてたまりませんでした。実在のモデルがいるのか、と。

 いました。1980年から始まって昨年までに63人の無実の人が、彼の尽力により自由を手にしたそうです。

 この小説の作者ジョン・グリシャムのデビュー作『評決のとき』(原題“A Time to Kill”)も、結末の展開に感動した一つです。

 娘を蹂躙された父親が、犯人に復讐(ふくしゅう)すべく彼らを殺害します。父親は黒人、娘を蹂躙(じゅうりん)した犯人たちは白人です。
 事件が起きたミシシッピ州では人種差別が色濃く残り、犯人が司法で裁かれない可能性が少なくないことから、父親が自ら手を下したのでした。

 殺人の罪に問われた父親の裁判で、陪審員の大半は白人です。黒人が白人を殺害したとなれば、陪審員の心証は悪く、厳しい判決が予想されます。
 陪審員たちが評決を下すべく協議する中で、一人の白人女性が、「皆で目を閉じて想像してみませんか。被害者の少女が黒人ではなく白人の少女だったと。私たちはどう感じるでしょうか?」と尋ねます。

 その作業を通して陪審員たちは、容疑者である父親の気持ちに寄り添うことができ、彼の心神喪失状態を認める評決を下したのでした。

 この展開に感動した私は、後にこの作品が道徳の教科書に採用されたと聞き、「さすがアメリカ」と思いました。
 一方で、残念ながら一部の州では、この本を公立図書館から排除しています。描写が生々しいとの理由ですが、それが本音の理由ではないのではないかと想像します。

 アメリカの良心の勝利を祈ります。


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