世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国・王毅外相の日韓訪問の成果とは

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は11月23日から29日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米当局、政権移行開始を認める(23日)。韓国、検事総長の職務停止 政権と対立、憲政史上初(24日)。日韓、外相会談(24日)。習主席、バイデン氏勝利を祝福(25日)。中国王毅外相、菅総理と面談(25日)。中韓外相会談、王氏が文大統領と面談(26日)、などです。

 王毅外相は11月24、25日と日本を訪問して茂木外相と会談し、その後菅首相との面談も行いました。24日の外相会談後の共同記者会見が話題になっています。記者会見の最後に王毅外相が語った内容に対する茂木外相の対応が批判されているのです。

 王氏は共同記者発表の最後、手元の紙を見ることなく尖閣諸島に関する中国の主張を展開しました。
 東アジアの緊張は日本漁船に責任があるとした上で「敏感な水域で事態を複雑化させる行動を回避すべきだ」と言い放ったのです。茂木氏はその場では反論しなかったため、26日に開催された自民党会合では「黙認しているようだった」と批判されました。

 中国は8月下旬、王毅外相が秋ごろ来日し、さまざまな懸案について協議したい考えを日本外務省に打診していました。習主席訪日への道筋を付けること、米中対立の構図の中で日本をできるだけ中立の立場に誘う狙いがあったと思われます。

 その時点で日本側は、王氏の秋の来日は難しいとの考えを伝えていました。尖閣諸島周辺海域での中国公船の活動、香港民主化問題などで日本の対中世論が悪化している事情などを考慮した判断でした。しかし中国の熱心な働き掛けがあったのでしょう。王氏訪日がスケジュール入りすることになりました。

 ところが「状況」が変化することとなります。菅政権は10月6日、日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋」の主軸を担う日米豪印4カ国の外相会合を初めて東京で開催。11月12日、バイデン前副大統領が菅首相と電話会談し、尖閣諸島が日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲だと言及。11月17日、オーストラリアのモリソン首相が来日し、自衛隊と豪軍の共同訓練などの「円滑化協定の締結」で大幅合意したのです。

 中国は、習氏の訪日を巡る日本の曖昧な姿勢にもいら立ちを募らせています。また、今回の訪日に合わせ、経済閣僚らが参加するハイレベル経済対話の開催を打診しましたが、日本は受けず来年に持ち越されたのです。中国側の本来の目的達成は難しい状況での来日だったことが分かります。
 これが王氏「発言」の背景です。

 王氏はその後、26、27日と韓国を訪問しています。
 外相会談と文在寅大統領との面談を行いました。習主席訪韓の早期実現に向けて意思疎通を図っていくことで一致、日韓中首脳会談の早期実現のために協力し続けることで合意、中国側の発表では中韓の外務・防衛担当者会議(2プラス2)や海洋当局間の協議立ち上げで合意しています。

 王毅外相の日韓訪問により、日米韓連携にくさびを打ち込むとの中国側の狙いは十分達成できたとは言えなかったと見るべきです。
 日本側のガードの高さが印象付けられた形です。茂木外相が「反論しなかった」ことに対する過度の批判はすべきではないでしょう。