世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

RCEP協定に15カ国が署名

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は11月9日から15日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米大統領、エスパー国防長官解任(9日)。菅首相、韓国情報機関トップ朴智元氏と会談(10日)。香港の民主派議員ら集団辞職表明(11日)。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定に15カ国が署名(15日)、などです。

 巨大自由貿易圏協定、RCEPの協議は2012年に開始しました。当初参加国は、日中韓やASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国、豪州、ニュージーランド、インドの16カ国でした。その後、安価な中国製品の流入などを警戒したインドが最終局面で離脱してしまいました。

 11月11日、ベトナムのハノイを起点とするオンラインで行う閣僚会議が始まり、ASEAN諸国と日中韓3カ国による首脳会合を経て15日に協定署名が行われたのです。

 協定は、関税と投資分野など20分野で構成されており、世界全体の30%(人口と総生産)を占め、日本の貿易総額の半分近くが協定の対象となっています。
 菅首相は会見で「RCEP協定に署名する。自由で公正な経済圏を広げる日本の立場を発信して、関係国の協力を得たい」と述べました。

 日本にとっては中国や韓国との初の自由貿易協定となります。
 関税の撤廃率は、参加国の経済状況を考慮して各国に保護品目を認めていますが、全体の品目数の9割を超えました。

 日本はコメ、牛肉・豚肉、乳製品など「重要5品目」を見直し対象から外し、国内生産者との競争が懸念される酒類は、紹興酒やマッコリなどの関税撤廃については協定発効から長い移行期間を設けています。

 注目すべきは、「ルール面」の約束事が盛り込まれていることです。
 企業の自由な活動を重視し、外資規制や政府介入を禁止・制限する、外資企業に対する技術移転の要求や、電子取引を手掛ける企業のコンピューター設備の設置を要求することを禁じる、などです。
 全て中国を念頭に置くものですが、実効性のあるものとする必要があります。

 条約の発効は、ASEAN10カ国と日中韓など5カ国で、それぞれ過半数が批准するとの条件が付けられています。

 この間(11~15日)、中国の対ASEAN攻勢が目立ちました。
 中国は、新型コロナウイルスへの対応をASEAN各国との関係強化のテコに用いています。

 コロナ禍で世界の貿易量が減少する中、中国とASEANとの貿易総額は1~10月に前年同期比5.1%増と拡大しました。
 さらにタイやミャンマーなどに新型コロナウイルスのワクチンの優先提供を申し出るなど、「ワクチン外交」も展開しているのです。

 11日からの各種会議で日本は中国の矢面に立たされることが多くありました。安倍政権から菅政権への移行、米国大統領選挙から来年1月の大統領就任式までの「移行期間」を利用して影響圏の拡大と定着を狙っているのです。

 12日の日本とASEAN首脳会議の成果文書を巡り、中国は「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」を対中封じ込めと警戒し、「インド太平洋」との文言を盛り込むことに反対しました。

 しかし共同声明では、ASEAN独自のインド太平洋構想と、日本の「自由で開かれたインド太平洋」構想が「本質的な原則を共有している」とし、この地域での日本とASEANが協調していく考えが示されたのです。

 中国側は、菅氏が自民党総裁選において「反中包囲網」に否定的な見解を示したことを「弱点」と見て、攻勢をかけているのです。今後も繰り返されるものと思われます。
 決して「弱点」をつかまれてはいけないのです。