夫婦愛を育む 139
不自由さを逆手にとって

ナビゲーター:橘 幸世

 「目のかすみに」「膝・腰・肩の痛みに」「取れない疲れに」等々、連日テレビや新聞にうたわれる健康関連商品の広告。
 少し前までは他人事と流していたものが、年齢と共に自分も含めて多くの人に生じる不快なんだと実感するこの頃です。

 そして、その不快・不自由が一時的なものではなく、ずっと付き合っていかなければならないものだと分かるたびに、ガックリする私がいます。身に起こる現実を受け止めていくには、結構なエネルギーが要ります。

 憂鬱(ゆううつ)な気分を切り替えきれないでいると、障害のある若者たちの生き方がニュース番組で紹介されていました。

 難病のため寝たきりながら、SNSを使って起業し社員7人をかかえる通称「寝たきり社長」。交通事故で片腕を失いながらも自立した生活の様子をネットで公開し、結果として健常者の力となっている人。

 やはり交通事故で下半身不随になりながらも友人二人とお笑い芸人になった人。

 いずれもSNSの時代ゆえに可能となったことですが、突然ふりかかった厳しい現実を受け止めてたくましく生きている彼らの姿に圧倒されました。

 お笑いを生業とする彼は、トリオの中で一番人気だそうで、「障害を強みとして最大限活用したい」とまで言っていました。
 友人二人は介護の資格も取得して彼の世話をしているというのですから、それだけ人として魅力があるのかもしれません。彼らの生きる姿勢と創造性はまばゆいほどです。

 そんな若者たちを見せられたら、私の不満など取るに足らぬもの。彼らに倣って、衰えた体力を強みとして最大限活用する道を見つけるしかありません。
 取りあえず、その手の運動教室や病院に行ってみて、新しい出会いを見つけようかなどと思いました。行動しなければ、変わりませんので。

 NHKスペシャル「認知症の第一人者が認知症になった」で紹介された長谷川和夫さん(90歳)も、マイナスをプラスに変えている一人です。

 長年認知症患者とその家族の力になってきた長谷川医師は、自身も認知症を発症し2年前に公表。かつて先輩医師に、「君自身が認知症になって初めて君の研究は完成する」と言われました。自身の体験も踏まえて、今なお研究・講演活動を続けています。

 とは言え、いざなってみると患者が味わう気持ちが初めて分かりました。記憶が不確かになるにつれ、不安に襲われるようになります。時に鬱(うつ)のような状態にも。

 朝目が覚めた時は「自分はどこにいるんだろう」と心もとない気分ですが、妻が声を掛けてくれ、彼女と言葉をやりとりする中で徐々に安心し、幸せだと確認できる。そんな日々だそうです。

 日記にはこう記されています。
 「僕の体や、精神、心のすべてに瑞子がいてくれる。この感覚は初めてだ。なんというのだろう。いつも瑞子と共にいる喜びだ。幸せだと思う」

 夫婦がここまで溶け合っている…! 認知症になったればこそ至れた境地でしょうか。
 今、長谷川さんは一日の終わりに必ず「ありがとう、瑞子」と奥さまにお礼を言うそうです。

 80歳の奥さまも、できるだけよくしてあげたいと、自身も腰痛を抱えながら精いっぱいお世話をしています。晩年になってなお、こんな素敵な夫婦でありたいものです。


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