愛の知恵袋 137
バウ・リニューアルのすすめ

(APTF『真の家庭』258号[2020年4月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

突然、家から出て行った妻

 ある男性から電話がかかってきました。かなり、困惑している様子で、「妻が家から出て行ってしまったんです!」と言います。「突然ですか、連絡はしてみましたか?」と聞くと、「電話は通じましたが、どうも、離婚まで考えているらしいんです。『私は全く納得できない』と言ったんですが、妻の意志はかなり固いようなんです…」と途方に暮れた様子でした。

 その後、お二人それぞれの言い分をじっくり聞いて、その内容を相手に伝え、仲介をはかるようにしました。その結果、はじめは「もう無理です」と言っていた奥様でしたが、「彼が本気で私と向き合ってくれるのであれば、もう一度だけやり直してもいい」ということになりました。そこで、お二人の話し合いの場を設け、数回の家庭学講座を聞いていただいたうえで、再出発のための“ミニ結婚式”をして、改めて愛を誓い合って船出をしていただきました。その後のことが心配でしたが、3カ月後、奥様から明るい声で感謝の電話を頂いたので、ホッとしました。

“人生の午後3時”―50代夫婦の試練

 近年、日本でも熟年離婚が非常に増えていることは、皆様もよくご存じの通りです。

 男も女も、互いに自分なりの夢と期待を持って結婚します。しかし、実際に同じ屋根の下で暮らし始めると、性格の違い、男女の心理の違い、生活習慣の違い、価値観や人生観の違いなどによって、「かみ合わない」「いらだつ」「がっかりする」というようなことが次々と起こります。誰もが経験する「こんなはずじゃなかった症候群」です。

 更に、40代半ばになると、職場で重責を担った夫は仕事で頭が一杯。パート仕事を始めた妻は思春期の子を抱えて悩みが尽きない。そんな時こそ、夫婦は互いに助け合い、励まし合っていくべきですが、心に余裕がないと、じっくり悩みを聞いてあげたり、今後の人生設計を確認し合う時間を持つことも忘れてしまいがちです。

 心に不満が鬱積すると、つい言葉もきつくなり、些細なことで喧嘩になり、口も利かなくなる。そうして、スキンシップもなくなり、愛を確かめ合う性生活も途絶えてしまい、いつしか胸の内には疲労感と失望、不満と怒りが渦巻いてきます。

 「これではいけない」と感じながらも、夫婦でしっかり向き合うということが苦手な日本人は、本音で話し合うことを躊躇し、先送りにしていく場合が多いのです。

 夫婦間で愛情を感じられなくなった時、女性の場合は子育てや友達に傾倒することが多く、男性はストレスで趣味や飲酒や賭け事に走る場合が多いようです。そして、この時期は夫婦ともに“心の空洞”を満たすために別の異性を求めてしまい、遂には離婚へと至ることもあります。

 子育てが一段落してフッと気が付くと、もう50代。孤独な日々を送っている自分がいる…。マリッジ・カウンセラーの近藤裕氏は、夫婦のこのような時期のことを“人生の午後3時”と呼んでいますが、全く同感です。仕事疲れが出てくる午後3時は、人生で“結婚生活疲れ”が出てくる50代とよく似ています。いったん荷を下ろして、気分転換をするべき時なのです。

夫婦でしっかり話し合い、愛の誓いを再確認しよう

 「♪今のままでは、今のまんま!」というコマーシャルソングがありましたが、まさしくその通りで、夫婦の倦怠期=50代の憂鬱は、「今のまんま」にしていてはいけません。

 ふと我に返ってみた時、家庭の中に喜びや楽しみがなく、夫婦の間に対話やスキンシップが無くなっていることに気がついたら赤信号です。直ちに、本来の夫婦の愛情を取り戻す方策を探しだすために行動に移るべきです。

 では、どんなことをすればいいのでしょうか? 私は三つのことをお勧めします。

 まず第1は、「学ぶこと」です。夫婦関係の本を読んで研究する。カウンセラーに相談する。夫婦セミナーや家庭学講座に参加する…。学べば、目からうろこの発見がたくさんあります。

 第2は、「二人がきちんと向き合って、率直に話し合うこと」です。自分が感じてきたことを正直に話し、相手の話も謙虚に聞きましょう。1日に10分でもそのような時間を持っていくと、心に響く発見があり、相手の良さを見直す機会にもなります。

 そして最後にもう一つ、ぜひお勧めしたいのは、「バウ・リニューアル」です。バウ(Vow)とは「誓い」のことで、「誓いを新たにする」という意味です。欧米では昔からあった習慣ですが、既婚の夫婦がもう一度略式の結婚式をし、そこで再度、愛の誓いをし合って、残りの人生をより豊かなものにしようというロマンチックなセレモニーのことです。今、世界で静かなブームになっていますが、日本でも広がりを見せています。家族だけでやることもできますが、多くの結婚式業者も取り組んでおり、芸能人夫婦たちも参加しています。

 また、ある団体では、家庭再建こそ世界平和への道だと考え、広く世界的に既婚者の結婚セレモニーを実施しています。このようなセレモニーに参加して、新婚時代の新鮮な気持ちに戻って、二人が新たな愛を誓い合って再出発することは、とても意義深いことだと思います。

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