愛の知恵袋 128
愛の戦場、正と負のトリガー

(APTF『真の家庭』249号[2019年7月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

青天の霹靂…ある日突然「離婚して!」

 妻から突然「離婚してほしい」と要求されたという男性からの相談がありました。

 退職して1か月、「今後のことはゆっくりと…」と思っていた矢先のことで動転したそうです。

 「そりゃあ、私だって少々ワンマンだったかもしれませんが、浮気をしたわけでもないし、ひどい暴力をふるったわけでもないし、ギャンブルや酒におぼれたというわけでもないのに…」

 「それで、どうされたんですか?」

 「結局、言い合いになってしまって、妻は出て行ってしまったんですよ。それにしてもショックだったのは『妊娠中にこんなことを言った』とか、『育児で大変な時に手伝いもしなかった』とか、30年前のことまで次から次に持ち出して私を非難するんですよ。まるで機関銃! こっちはもうハチの巣です!」

 こうして、言い合いは延々と続いたが、幸いまだ離婚届に印鑑は押していないというので、「とにかく落ち着いて、なぜ、奥さんがそんな気持ちにまでなったのかを、じっくり考えてみましょう」ということになりました。

思いのすれ違いを放置しておいたら大変

 熟年離婚が増えています。資料によれば、1985年から2015年までの30年間で、同居期間20年以上の夫婦の離婚は約2倍に、30年以上の夫婦の離婚は約4倍に増えています。

 離婚の理由は、性格の不一致、異性問題、借金や浪費、家庭内暴力、精神的虐待…などですが、不倫・暴力・経済トラブルなど、明らかにどちらかに非があるような原因で離婚に至るのは、比較的同居期間の少ないうちです。30年以上も共に過ごしてきた夫婦の離婚原因は、むしろ、もっと繊細で、目に見えにくいものであることが多いのです。

 つまり、極端な行動ではなくても、結婚生活の随所で味わった〝心無い言動〟による心の傷が、失望・怒り・悲しみといった負の感情と共に蓄積され、それが臨界点に達してついに爆発するという場合が多いのです。

 さて、男性の皆さんは、妻と衝突した時、彼女の驚異的な記憶力に驚いたことはありませんか? 女性がいったん不満を爆発させたら、男は白旗を上げるまで、次々と過去の罪状を繰り出されるのです。

 その理由を、『妻のトリセツ』の著者、黒川伊保子さん(人工知能研究者・脳科学コメンテーター)が、脳科学の観点から説明しています。

 まず、会話に関して、男性脳の特徴は「問題解決」ですが、女性脳の特徴は「共感欲求」です。だから、男性がどんなに正論を言おうが、〝共感〟してあげない限り女性は満足しません。

 もう一つ、女性脳は体験した記憶を全て〝感情〟で色分けした見出し付きで収納しているので、ひとたびある感情がわくと、それがトリガー(引き金)になって、過去の同種の感情体験が芋づる式に一気に引き出されるというのです。考えただけでも恐ろしい……。

怒りのトリガーを避け、幸せのトリガーを引こう

 では、世にも恐ろしいこの連鎖システムに、男たちはどう対処したらいいのでしょうか?

 第1は、妻の「共感欲求」にいつも応えるよう心掛けること。つわりの時、育児の時、家事や仕事で疲れている時は要注意。妻の愚痴を聞いたら、あれこれアドバイスするのではなく、まず、「そう、大変だね」と共感してあげ、そして、「いつも頑張ってくれてありがとう」とねぎらいの言葉をかけてあげましょう。さらに、もう一言、「気が付いてあげられなくて、ごめんね」と謝ることまでできたら、満点パパです。

 第2は、怒りの連発機関銃の防御対策ですが、これがなかなか難しい。

 まずは、〝怒りのトリガー〟に触れないように、日常の言動に気を付けましょう。その為には、間違っても次のような禁句を言わないことです。「だったらやらなくていいよ」「つまり、こういう事だろ?」「おかず、これだけ?」「今日何してたの?」「いいな~君は。一日中子供と一緒にいられて」。

 もう一つの対策は、女性脳の感情連鎖記憶装置を良いほうに活用すること。女性脳は嬉しい思い出も同じように感情の色分けをして記憶情報として収納しているそうです。「親切にしてくれた」「嬉しかった」「楽しかった」…それらの記憶情報をいつまでも大切に保存するらしい。

 だとすれば、日ごろから、妻の苦労をねぎらい、進んで家事に協力したり、愚痴を聞いて同情してあげたり、感謝の言葉をかけたりして、妻の幸せ情報収納箱に入れておきましょう。

 そして、それらの嬉しい記憶を一気に引き出す〝喜びのトリガー〟を引く絶好のチャンスが「記念日」です。どんなに忙しくても、「結婚記念日」と「誕生日」だけは大切にしましょう。

 「どこに行きたい?」とか、「食べてみたいものある?」とか妻の願いを聞いて計画を立てましょう。こんな時、男性は〝サプライズ〟をしたがるのですが、女性はさほど喜べません。

 それよりも、1か月前に予告しておくと、女性は聞いたその日から当日まで、毎日、思いを巡らせながらワクワクしながら過ごすことができるというのです。そして、その後もしばらくは楽しい思い出に浸りながら暮らせるというのです。

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