世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

「コロナ」下で米中貿易協議開催

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、427日から510日までを振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。
 中国、全国人民代表大会を522日から開催と発表(429日)。金正恩氏、肥料工場の竣工式に出席(3週間ぶりに姿を現す)(51日)。北朝鮮、非武装地帯の韓国軍監視所へ銃弾発射(3日)。韓国の白血病女児、日本の臨時便でインドから救急帰国。家族を含む3座席の確保とビザ発給を日本が支援(5日)。米中、貿易交渉巡る「第1段階合意」で電話協議(8日)、などです。

 今回は米中貿易電話協議を扱います。

 米中両国政府は58日、今年1月に署名した貿易協議の「第1段階合意」(合意発表は昨年1213日)を巡って電話協議を行いました。
 協議に参加したのは、中国の劉鶴副首相、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表、ムニューシン米財務長官です。新型コロナウイルス感染拡大後の正式協議は初めてのことでした。

 協議において中国側は、合意履行に「有利な雰囲気と条件」をつくるよう努力をすることを確認したとし、米国側は、新型コロナと関係なく輸入目標を達成するように中国に要請した、と発表しました。

 「第1段階合意」について説明します。
 米中は一昨年(2018年)7月から制裁と報復関税の応酬を行い、世界経済に深刻な影響を与えましたが、昨年1213日、不完全であり不透明なところもありますが、ひとまず「合意・休戦」となりました。

 米中が合意したポイントは5点。
 ①合意は第1段階と位置付ける ②米国が1215日(2019年)に予定した中国に対する制裁関税は見送る ③合意は知的財産権、技術移転、食品・農産物、金融サービス、為替レート、貿易の拡大など9章で構成される ④米国は発動済みの制裁関税を段階的に撤廃する ⑤約2500億ドル相当の中国製品への追加関税は25%のままとし、15%を課している約1200億ドル相当は 7.5%に引き下げる、というものでした。合意書の署名は1月に行われ、2月に発効しました。

 それから約3カ月が経過。58日の電話協議では、中国が米国産品の輸入を2年で2000億ドル増やすこと、米国が中国にかけた追加関税を段階的に下げるとの約束を巡って行われました。

 合意では、貿易戦争前の2017年を対中輸出拡大の「基準年」としていました。米農務省は13月の農産品の対中輸出はいまだ17年比45%減であることを強調し、不満を表明。一方、中国は1~3月の米国産大豆の輸入額は前年同期比の3倍に急増したと主張したのです。

 協議後の声明は、両国の認識の「違い」が明らかになりました。中国商務省の声明にある「有利な雰囲気と条件」とは、現在の険悪な米中関係を改善する必要性を指しています。中国側の関係者は「米国がこれからも批判を続ければ米中間の信頼の基礎が破壊される。臨界点を超えれば、今後の合意履行に響きかねない」と述べています。

 他方、米国通商代表部(USTR)は声明で「両国は適切な時期に完全に義務を果たすことで合意した」とし、新型コロナに関係なく中国が米国産品の輸入拡大の約束を守ることを要請したのです。

 いずれにせよ、米中が新型コロナウイルス発生源を巡る対立が深刻化する中で建設的な協議を行ったことを評価したいと思います。

 ウイルスとの闘い・共存の知恵は、全世界の協力が必要であり、特に米中両大国の役割は大きいのです。発生源や初期対応、その後の国際間協力を巡る問題の批判的検討は、ワクチンや治療薬の登場後で十分です。

 「今は協力を」と訴えたいと思います。