世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

トランプ氏「無罪」、危機を乗り越え再選へ

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は2月3日から9日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 習近平指導部、新型肺炎で対応の誤り認める(3日)。EU(欧州連合)、米の中東和平案に反対(4日)。大統領弾劾裁判、トランプ氏無罪(5日)、などです。

 米国上院は2月5日、トランプ大統領に無罪の評決を下しました。
 これでトランプ氏に対して民主党が訴追した「権力乱用」と「議会妨害」に関する弾劾裁判は幕を閉じることになります。

▲トランプ米大統領(ウィキペディアより)

 簡単に経緯を述べてみます。

 昨年9月、情報機関の匿名告発者がトランプ氏とウクライナ大統領との電話会談に問題があったと議会に報告しました。

 その内容は昨年7月25日、ウクライナのゼレンスキー大統領とトランプ氏の電話会談で、トランプ氏がバイデン前副大統領とその息子について捜査するようゼレンスキー氏に働き掛けており、その引き換えに「軍事援助」と首脳会談実現を提示したというのです。この点が「権力乱用」の訴追要件です。

 さらに昨年9月から民主党が調査を開始すると、トランプ氏はホワイトハウス関係者の証言を阻止。この点が「議会妨害」であるというのです。
 昨年12月18日、この2項目について米下院(民主党が過半数を獲得している)は大統領を弾劾追訴したのです。

 「弾劾」は、合衆国憲法に従って行われます。合衆国憲法第2条第4節には「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ収賄、重犯罪や軽罪により弾劾と訴追され有罪判決が下されれば、解任される」と規定されています。そして憲法第1条第2節第5項は、下院が「弾劾の権限を占有する」とのみ規定されているのです。

 しかし、憲法第1条第3節第6項で「上院は全ての弾劾を審判する権限を占有する」とあり、さらに「合衆国大統領が審判される場合には、最高裁判所長官が議長となる。何人といえども、出席議員の3分の2の同意がなければ、有罪の判決を受けることはない」と定めているのです。
 以上のことから、実質的には、上院議員が判事と陪審員を兼ねることになるのです。

 現在の上院は定数100議席のうち、53対47で共和党が多数を占めています。評決では「権力乱用」については無罪52、有罪48。民主党議員47人全員が有罪票を投じ、共和党からはミット・ロムニー議員(ユタ州)だけでした。

 「議会妨害」(下院による弾劾調査への協力を拒み議会を妨害)に関しては、無罪53、有罪47となり、無罪を言い渡すこととなったのです。

 トランプ氏は、結果として共和党の強固な支持を取り付けることに成功しました。2016年に共和党の大統領候補に指名された時、党内には公然とした反対の声がありましたが、今や共和党を完全に「支配」した形です。就任後3年間で最大の危機を乗り越え、トランプ氏は再選に弾みを付けることとなりました。