コラム・週刊Blessed Life 104
宗教国家としてのアメリカ

新海 一朗(コラムニスト)

 米国では、2020年の大統領選挙が行われる前段階の大統領予備選挙がアイオワ州を皮切りに始まりました。共和党においては、トランプの選出はほぼ間違いないでしょう。一方の民主党の代表が誰になるのかは、候補者乱立の中、予測が難しい状況です。

 そもそも、米国は歴然としたキリスト教国家であり、大統領は信仰を持っているのが当然であると見られますが、ここ最近の民主党候補の中には社会主義者であったり、共産主義者と間違えられるほど急進的な左派であったり、とにかく海千山千の候補者たちが顔を並べています。魑魅魍魎(ちみもうりょう)の民主党といったところです。

 よく欧米の政治と宗教においていわれるのが、「政教分離」という言葉です。この言葉が誤解を招くのは、政治に宗教を持ち込んではならないというような単純な理解をしてしまうことです。

 アメリカの実際の国家と宗教の関係を見てみましょう。

 米国大統領は、神の前に職務精励を誓い、聖書に手を置いて宣誓します。大統領就任式や国葬など、主要な国家儀式が全てキリスト教式に行われ、また最高裁判所にはモーセの十戒が掲げられています。

 アメリカ合衆国議会、裁判所、軍隊、警察、刑務所、公立病院には専属牧師が置かれており、議会の開会は牧師による祈祷から始まります。

 軍隊では、従軍牧師のような聖職者を雇用し、空母に礼拝所を設置し、宗教行事を執り行うことが容認されています。

 大統領などの国葬は、それぞれの宗教儀式によって行われ、戦没者の追悼式はキリスト教の宗教儀式を執っています。

 アメリカ合衆国ドルのコインと紙幣には「IN GOD WE TRUST(我ら神を信ず)」の文言が刻まれ印刷されています。
 また、「星条旗に対する宣誓」の中に、「ONE NATION UNDER GOD(神の下にある一つの国家)」という言葉があります。
 そして、宗教団体への寄付金は所得控除の対象となっています。

 以上のような米国の現実を見ると、アメリカは神に対する揺るぎない信仰を表明している国家であるといえます。
 さまざまな背信がアメリカにあるとはいえ、神がアメリカを簡単に見捨てるわけにはいかない理由が分かります。

 アメリカの大統領と国民にとって、宗教が政治に深く関わる現実こそがアメリカの社会と国家の在り方であり、アメリカ型の自由と民主主義を世界に拡大することがアメリカに託された神の意思であるという信念に貫かれているといってよいでしょう。

 以上、見てきたことから分かるように、アメリカの政教分離は、宗教と国家の分離を求めているのではなく、特定の教会と国家の分離を規定しているものです。
 そういうわけですから、宗教が国家と親密な関係を持つことは、むしろ歓迎すべきことであるという考え方に立っています。

 従って、大統領がどういう信仰を持っているか、どの程度の信仰なのかということは国民の関心事であり、それは大統領選挙に直結してきました。

 大統領は国の祭司であり、国民を励ます牧師であり、国民を奮い立たせる預言者としての役割を担っています。

 政治の責任者という顔は、日本の首相も米国の大統領も変わりませんが、それとは別に、大統領は日本の天皇のように宗教的大祭司としての顔も併せ持っているのです。