世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米下院、「ウイグル人権法案」可決―中国、「香港」以上に反発

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、12月2日から8日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 冷戦終焉(しゅうえん)宣言、マルタ会談から30年(12月2日)。米下院、ウイグル人権法案可決(3日)。中村哲医師が死亡、アフガンで銃撃される(4日)。北朝鮮「重大実験に成功」と発表(7日)。トランプ大統領、金正恩委員長との良好な関係強調(7日)、などです。

 米国が中国の人権問題に関する攻撃を続けています。
 去る11月27日、トランプ大統領が「香港人権・民主主義法」に署名し成立させました。香港の高度な自治を認める「一国二制度」が機能しているかどうかを米政府に毎年の検証を義務付け、人権を犯した中国政府関係者らに制裁を科せるようにする内容となっています。

 さらに米下院は12月3日、「ウイグル人権法案」を圧倒的多数で可決しました。法案には、ウイグル族抑圧の責任を負う中国当局者(共産党政治局も含む)への制裁を米大統領に義務付ける条項のほか、ウイグル族や中国市民の通信や動向を制限したり偵察するのに使われ得る機器の輸出規制などが加えられました。この点が中国にとっては深刻なのです。

 ウイグルの人権問題はこれまでも指摘されてきましたが、下院決議につながる契機は、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が11月24日、中国の内部文書を公表したことでした。入手した複数の文書は、「一体化統合作戦プラットフォーム」と名付けられた監視システムの運用について指示しているものでした。

 例えば、2017年6月19日からの一週間で、新疆(しんきょう)南部の四つの地域で2万4千人余りの「疑わしい人」を特定し、うち約700人を逮捕、約1万6000人を施設に送ったというのです。
 さらに約800万人いるウイグル族のうち約100万人を要注意人物として拘束し、裁判をせずに「職業訓練センター」と称する強制収容所に送った。ウイグル語ではなく中国語を使わせ、共産党への忠誠を誓わせる洗脳を行っている、などが記されていたのです。

 元収容者たちの証言では、拷問や自己批判、イスラム教が禁じる豚肉食の強要があったといいます。まさに反イスラム的な「文化浄化」です。

 ICIJは、1997年に米国にできた非営利の報道機関です。ワシントンに本部があり、多国籍企業や富裕層がタックスヘイブン(租税回避地)を利用する実態を明らかにした「パナマ文書」、「パラダイス文書」報道などでも注目を集めたことがあります。世界的に評価の高い非政府組織(NGO)なのです。

 法案は上院で採択され大統領の署名をもって成立しますが、その日程は決まっていません。トランプ政権は、中国の今後の動きを見ながら本丸である中国の「構造改革」に向かってプレッシャーをかけ続けるでしょう。