愛の知恵袋 94
「ネガポ」で生き方を変えよう

(APTF『真の家庭』213号[2016年7月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

ある高校生の悩み

 「お母さんから、最近、引きこもりがちだと聞いたけど、何か悩みでもできたの?」

 「悩みと言えば、悩みだらけです…。なんだか自分が嫌になってしまったんです」

 「そう…、自分のどういうところが嫌になったの?」

 「友達から『愛想が悪い』って言われるし、『クラい』とか言うやつもいるんです」

 「ふうーん、そうは見えないけどねえ」

 「それで、笑おうと思って無理して笑うと、『キモイ』ってバカにされるし…」

 「他には…?」

 「群れてワイワイやるのが嫌いなほうなので、『付き合いが悪い』って言われます」

 「学校では、友達はいるの?」

 「うーん…、いるけど、少ないです」

 「そう、でも、そういう人は世の中にはたくさんいるよ。なにか心配事があるの?」

 「将来、社会に出て就職したら、職場の人達とうまくやっていけるか、今の自分では全く自信がありません…」

「ネガ」を「ポジ」に切り替える

 私は書棚から一冊の本を持ってきて、彼に見せました。

 「君、この本を知ってる?」

 「ネガポ辞典…? どこかで聞いたことはあるような気がするけど…」

 「この本はね、君と同じ高校生が始めた運動が発展してできた本なんだよ」

 「ふうーん、ネガポって、何のことだろう?」

 「あらゆることを『ネガティブ』から『ポジティブ』に転換する…ということ。つまり、これは消極的・否定的な言い方を、積極的・肯定的な言い方に変える辞典だよ。

 例えば、君は『愛想が悪い』と言われるって言ってたよね。それを良いほうに考えると、『媚(こび)を売らない』『他人に流されない』ということになる」

 「へぇー、じゃ、『暗い』っていうのは?」

 「『暗い』という面をポジティブにとらえれば、『落ち着いている』『聞き上手だ』『自分の世界を持っている』ということにもなるね」

 「じゃあ、『付き合いが悪い』というのは?」

 「『一人で過ごす楽しさが分かっている』とも言えるし、『ノーと言える人』…つまり、『嫌なものは嫌と断ることができる勇気がある人』ということにもなるわけ」

 「ふーん、そう言われれば、僕もそんな一面は持っているような気もするなあ……。先生、この本、ちょっと借りてもいいですか?」

 「ああ、いいよ。読んでみると自分も捨てたもんじゃないってことが分かると思うよ」

長所と短所はコインの表と裏

 哲学者のアランは『幸福論』の中で、こう言っています。

 「賢人の言っているように、甕(かめ)にふたつの取っ手があると同じく、どんな事柄にも二つの面がある。悪いと思えばいつでも悪い。良いと思えばいつでも良い」

 コインには必ず表と裏があるように、私達の性格は、長所と短所が表裏一体でつながっています。例えば、「選んだ相手が『言葉のきつい人』だったので悩まされたが、ピンチの時は『しっかりした人』だったので救われた」ということはよく聞きます。

 また、「『優しい人』を選んで結婚したので安穏ではあったが、『頼りない』ので経済面では一生苦労をした」という話もあります。そんな時は、相手の欠点を嘆くより、長所に感謝して暮らすというのが賢い生き方でしょう。

 日常に起きてくる物事にも同じことが言えます。あることを否定的にとらえるか、それとも肯定的にとらえるか、それによって自分の幸福度が全く違ってきます。

笑うから、幸せなのだ

 アラン(本名エミール=オーギュスト・シャルティエ)は、パリの名門校などフランス各地の高校で、哲学の教師をしてきた人です。一教師でありながら実社会に対して積極的に発言し、彼の寄稿した膨大な数の文章が新聞に連載されたことでも知られています。

 “ネガポ”の生き方の先駆者だったとも言える彼の言葉を聞いてみましょう。

 「幸福になろうと欲しなければ、絶対に幸福にはなれない」

 「幸福とは贈りあうことによって増えていく宝である。ひとこと、親切な言葉を、心からの感謝の言葉を言ってごらん」

 「できるだけ気持ちよく過ごすためには、いやな言葉を吐いたり、いやな思いを抱いたりしてはならない」

 そして、最後に、最も彼らしい言葉です。

 「幸せだから笑っているのではない。むしろ僕は、笑うから幸せなのだ」