世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

トルコ、シリア北部・クルド人武装組織を攻撃

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は10月7日から13日を振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米台当局間、初の「太平洋対話」開催で中国の「拡張主義」に対抗(7日)。トルコ軍がシリア北部への軍事作戦開始、クルド人勢力に空爆(9日)。トランプ大統領、トルコの越境攻撃「悪い考え、支持しない」と表明(9日)。サウジ沖、イランのタンカーが爆発(11日)。韓国大統領府、天皇陛下の即位礼に李洛淵首相の参席を発表(13日)、などです。

 今回は、トルコ軍によるシリア北部への軍事侵攻を扱います。
 10月9日、トルコ軍は国境を挟むシリア北部を攻撃しました。目標は、クルド人の武装組織「人民防衛部隊(YPG)」に対する攻撃でした。

 トルコは、YPGを国内で分離独立運動を展開する非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」と一体であると見ています。今回の軍事行動によって、トルコとシリア北部との間に「空白地帯」を設置して、PKKとの関係を「断つ」ことを目指しているのです。

 クルド人は、推計人口3000万人。国のない世界最大の民族といわれています。独特の言語と文化を持ち、第一次大戦後、英仏ロによって居住地域の真ん中に国境線を引かれてしまいました。その結果、トルコ、イラク、イランにまたがる地域で生活するようになったのです。

 以来、各国で少数民族として迫害され、同化を強いられるなど、苦難の歴史を歩んできました。民族自決の権利を訴え、各国で自治要求・独立運動を展開してきたのです。PKKはこれまで、トルコ国内で警官や軍、時には一般国民を巻き込む「テロ」を引き起こしてきました。

 ところがYPGはこれまで、「イスラム国(IS)」掃討作戦を米軍と共に行ってきた「功労者」という一面を持っています。米国製武器の供与を受けてきており、対ISの立場で見れば「同盟的関係」にあったのです。

 トルコのエルドアン大統領が軍事行動を決断した背景には、10月6日に行われたトランプ大統領との電話会談があるといわれています。その後、トランプ氏の米軍のシリアからの撤退表明があったのです。トランプ氏がトルコの行動を黙認したのでは、と見られているのです。

 米軍はシリア北部のクルド人勢力範囲内に約1000人の軍人を派遣しています。そのうちYPGと共に行動をしていた約50人は撤退しました。

 紛争拡大の懸念が広がっています。シリア政府軍がYPGと連携してトルコ軍に対抗しようとしています。さらにISの復活もあり得ます。

 トランプ氏はトルコの行動を「支持しない」と表明していますが、トランプ氏に近い共和党議員からも批判の声が上がっています。ボルトン氏の更迭が影を落としているのかもしれません。

※「世界はどこに向かうのか」は、来週配信分から11月19日配信分までお休みいたします。ご了承ください。