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通いはじめる親子の心 21
自尊感情を持つ子供

 アプリで読む光言社書籍シリーズ第6弾、『通いはじめる親子の心〜子供の気持ちに「共感」する』を毎週火曜日配信(予定)でお届けしています。

多田 聰夫・著

(光言社・刊『通いはじめる親子の心〜子供の気持ちに「共感」する』より)

第五章 子供を愛する

 「統一原理」の創造原理では、すべてのものは「個性真理体」として創造されていると説いています。これは、「個性」と「真理体」の二つの言葉から成っています。

 神様と人間は親子です。親なる神様は、子供である人間一人ひとりに、世界でたった一つの特別な個性を与えてくださっています。「個性」というのは、他のどこにもない「独特性」のことです。神様は、その個性を愛してくださっています。

 一方で、誰もが普遍的に共通するものを持っています。人間の顔には誰にも、目があり、口があり、鼻があります。すなわち、普遍的な真理を現しているので、「真理体」であるというわけです。しかし、すべて全く同じというのではなく、目や口や鼻の大きさや形や太さなど、同じ人はいません。それが「個性」ということになります。

自尊感情を持つ子供
 人間は、一人ひとりが、「個性真理体」として、神様が愛で育んでくださった貴い大切な神様の子女です。

 子供が、自らが「個性真理体」であることを確認できるためには、家庭の中でどのようでなければならないでしょうか。

 第一に、「自分はここにいるべき存在だ」と感じることが大切です。

 第二に、「家族は、自分の存在を喜んでくれている」と感じることです。

 第三に、「自分の存在が家族に幸福をもたらしている」と確信することです。

 第四に、「自分が好きだ」という感覚を持つことです。

 第五に、「自分を愛してくれる人がいる」という実感が持てることです。

 しかし、現実はさまざまな事情の中で親子の絆が薄くなり、自身の存在価値を見いだせない子供が多くなっています。

 肯定的な言葉や思いをたくさん心に書き込まれた子供は、自分に対して肯定的なイメージを持つことができます。そして自分が好きになり、自分に対して誇りを持つことができます。これは「自尊感情」とも言われます。これは家庭で、特に親から与えられるものなのです。

 ところが実際には、子供に対して否定的な言葉をかけている親が多いのではないでしょうか。掃除をしないから駄目、食べるのが遅いから駄目、勉強をしないから駄目、テレビばかり見ているから駄目……。一日に何回も、何十回も駄目という言葉をかけているのではないでしょうか。これでは「自尊感情」ではなく、「自己嫌悪」の感情を子供の心に植え付けてしまいます。

 子供たちの口から「めんどうくさい」とか、「疲れる」とか、「忘れた」といった言葉が多く聞かれます。また、「自分が好きになれない」という言葉も多く聞かれます。

 このような言葉は、愛の減少感を感じた結果としての表現なのです。つまり、子供たちが、自分が家庭の中で「個性真理体」として、貴い存在として認められていないと感じているのです。このような言葉を発することで、子供たちは親にメッセージを送っているのです。

 一つの例を紹介します。

 26歳の独身女性に一対一で四日間、原理講義をしたことがあります。講義をしながらいろいろと話をしましたが、その女性が「めんどうくさい」とか、「忘れた」、「疲れる」という言葉を多く発するのです。どんなに話しても、なかなか気持ちが前向きになりませんでした。

 三日目に、山にでも登ったらいいのではと提案してみましたが、「疲れるから」とか、「めんどうくさい」と言って受け付けてくれませんでした。

 しかし本人は、仕事では残業をしても気にならないというのです。どうしてなのかと聞いてみると、お金になるからとのことでした。価値観が、心を中心にしたものから、お金を中心にしたものになっているのではないかと心配になりました。

 四日目に、家庭のことをもう少し詳しく聞いてみました。最初は、「忘れた」と言っていましたが、粘り強く聞いていくと、実は母親がいつも妹と比較して、「どうしておまえはそんなに暗いのか」とか、「することが遅い」と言っていたというのです。少女時代に、家庭の中に「個性真理体」として受け止めてくれる環境がなかったのです。そして愛の減少感に敗北し、いちいち反応することが億劫(おっくう)になり、「めんどうくさい」とか「疲れた」、「忘れた」などと言っていたのです。

 子供の心はとても繊細です。親は、子供が「個性真理体」としての自覚ができるように、環境を整えてあげましょう。

 では、どうしたら愛が子供に届くのでしょうか。

 第一に、親があるがままの子供を受け止めて、愛してあげることが大切です。親が、自分の理想に沿って子供を助け過ぎると、親が子供に望むものを教えるだけになってしまいます。それでは、親にとって「いい子」になってしまうのです。

 第二に、子供に「自分の願いに応え、欲求を満たしてくれる人がいる」と感じられるようにすることです。この安心感が、子供の人生の支えになります。子供が小さい頃は、よく抱いてあげ、肌を触れ合うこと(スキンシップ)、目を見て笑顔で優しく話しかけること、よく一緒に遊んであげること、無条件にかわいがることが必要です。

 第三に、肯定的な言葉をたくさんかけることです。肯定的な言葉をたくさん心に刻まれた子供は、自分に対して肯定的なイメージを持つことができます。そして、自分を好きになることができるのです。

 第四に、親が子供の甘えを受け入れることです。子供は大きくなるに従って、いろいろな問題を抱えるようになります。友達からいじめられたとか、先生から叱られたとか、集団生活の難しさを感じたりします。

 家に帰ると、子供は、「あのね……」と、抱えている問題を親に話そうとします。それは、子供の親に対する「甘え」です。安心感を得たいから、心の痛みを癒やそうとして話そうとするわけです。親がその「甘え」を受け入れることによって、子供の欲求に応えてあげると、心の支えができるようになります。それが、子供の自立への準備となります。「甘え」を受け入れることも大切なのです。

 甘えを受け入れることと、甘やかすこととは違います。甘えを受け入れるというのは、子供の要求に応えて、親が必要な精神的サポートをすることであり、甘やかしは、親が必要以上に子供の世話を焼くことです。

 例を一つ紹介します。福岡に住む男性が私に語ってくれたものです。

 「お盆に親戚と家族が集まりました。しかし、高校二年生の甥はなぜか一人だけ別の部屋で携帯電話を離さず、私たち家族と話をせずに、一人ぽつんと座っていました。彼は髪を赤っぽい色に染め、口と耳にピアスをしていました。高校生でありながらタバコを吸い、親の言うことも聞かず、小さい頃の無邪気な純粋な面影はありませんでした。

 彼のそばに座っていると、彼は英語がとても好きで、もっと上達したいと言ってきました。私が英語が好きになったきっかけや上達の秘訣(ひけつ)などを話してあげると、彼はとても興味を示してきました。そしてお互いに英語で話し合い、彼の英語の発音の良いことを認めてあげました。

 さらに交流が深まっていくと、彼の今の生活、これからの生き方などにも話が及びました。そして私はタバコをやめること、結婚するまでは男女関係を持たないことなどまで話しました。驚いたことに、彼は素直に話を聞き、今の生活を正しい方向に変えていくように努力することを約束しました。

 そして家族のいる部屋に一緒に行き、談話に加わりました。彼が実は私を尊敬しており、私のように英語を話せるようになりたいと思っていたことを皆の前で話したときは、本当に驚きました。そして早速その日、彼はピアスを全部外して捨て、髪を元どおり黒く染めたのです。あまりの彼の変化と、私が彼に与えた影響に、家族は驚きました。

 彼とはその後、名古屋に帰ったあとも、私と英語でメールをやり取りしています。

 また、息子の教育に手を焼いていた妹(彼の母)は、聞くことの重要性を理解してくれました。彼は長い髪の毛を短く切り、その写真を送ってきました。

 妹は、『私は、自分の観点で息子を裁くような目で見ていましたが、実は息子がこんなに純粋であること、そして変わりたいと願っていることを知り、決して表面的に判断してはいけないことを教えられました。少しの時間話を聞いてあげるだけでも、こんなに変わるのかと驚きました』と話してくれました」(続く)

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 次回は、「責任感を持つ子供」をお届けします。


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