親育て子育て 9
親子で好きな絵本を選ぶ

(APTF『真の家庭』179号[2013年9月]より)

ジャーナリスト 石田 香

読みながら話し合うことで、読みが深まっていく

人生で3回、絵本に出会う

 読み聞かせの始まりは絵本ですが、絵本は小さな子供が読むものだと思っていませんか。ノンフィクション作家の柳田邦男さんは、「人は人生で3回、絵本に出会う」と言っています。親に読んでもらう子供の時、子供に読み聞かせをする子育ての時、高齢になって人生を振り返る時の3回です。本ですと多くの字で表現する内容を、印象的な絵と短い言葉に凝縮しているので、良い絵本はそれくらいの深さがあるのです。

 本の選び方は、子供が喜ぶ本、楽しい本、面白い本、感動する本を選ぶことです。年齢によって好みは変わりますが、本人が読みたい本が第1で、その気持ちを大事にしてあげてください。大切なのは、本はいいな、楽しいなという体験をしっかり持たせることです。もちろん、親自身としても読んでいいと思える、親子で話が発展しそうな本を選ぶようにします。

 本選びの大まかな目安としては、学齢期前は原因から結末への筋立てが単純で分かりやすいもの、善悪がはっきりしていて、努力すれば報われるというハッピーエンドものが適しています。子供は純粋なので、人間として正しい生き方が描かれているものを選ぶようにします。とりわけ昔話はどんでん返しがないから、安心して読み聞かせができます。

 絵本は親子で一緒に楽しめる点でも優れています。絵を見せ、「次はどうなるかな」などと話し合いながら読み進めます。物語の要所では、「この子は、どうするのだろうね」など物語の展開や登場人物の気持ちを想像するような語り掛けをします。そしてページをめくると、自分が考えたことと同じだったら満足するでしょうし、違っていると、こんなふうに考えたのかと学習します。それによって読み方が深まるのです。

 谷川俊太郎さんの『もこもこもこ』(絵・元永定正)は、「もこ」「にょき」「ぽろり」といった擬音ばかりなので、大人なら1、2分で読めます。ところが子供はいつまでも飽きずにながめています。むしろ、心の豊かさや頭の柔軟性など、大人が失っているものを教えられます。

小学校で読み聞かせ

 私はママ友たちと小学校で読み聞かせのボランティアをしています。きっかけは、学校で読み聞かせ活動をしていた女性の先生が、退職を機に始めた勉強会に参加したこと。発声法や滑舌、情感の込め方、抑揚のつけ方などを習っています。

 その発表の場が市内の小学校。授業が始まる前、朝の会の15分を使い、2人で2冊の絵本を朗読します。絵はパワーポイントでスクリーンに映し、BGMを流しながら朗読します。

 最近、私が読んで好評だったのは、くすのき・しげのりさんの『おこだでませんように』(石井聖岳絵、小学館)です。

 家でも学校でも怒られてばかりいる小学1年生の男の子が、七夕祭りの短冊に書いた願いごとが、「おこだでませんように」。それを見た女性の先生が、「先生、怒ってばっかりやったんやね。ごめんね。よう、かけたね」と褒めてくれたのです。先生から電話のあった母親も、「ごめんね。お母ちゃんも、怒ってばっかりやったね」と抱きしめてくれました。その夜、男の子は、「七夕さま、ありがとう。お礼にぼく、もっとええ子になります」と言いながら眠りに就きます。

 子供たちの日常によくあること、大人との気持ちの擦れ違いを、まるでカウンセリングのように再現しています。読みながら、私たちも日頃の子供たちへの接し方を反省させられ、大人にも訴える内容があります。

日本語の美しいリズムを

 小学校低学年の国語の教科書に、「いなばのしろうさぎ」や「やまたのおろち」など日本の昔話や神話が登場するようになりました。これらの話は、日本人がまだ文字を持たなかった時代に、自分たちの成り立ちを伝える物語として、世代を超えて語り継がれてきたもので、それが古事記に収録され、今に伝わっています。

 日本に漢字が入ってきたのは5世紀のころとされ、日本人が文字を使うようになったのは、さらに後のことです。それまでの圧倒的に長い間、言葉は語るものであり、文字を持ってからも、いわゆる口承文学は文化の大きな部分を占めていました。人の語りを聞いて記憶し、イメージを膨らませることで、精神世界を豊かにしてきたのです。親から子への読み聞かせは、そうした民族の営みを継承することでもあり、大きな意味があります。

 また、日本語の美しいリズムを見直す動きから、小学校高学年の国語の教科書には『枕草子』や『平家物語』の名文が載っていますので、朗読して日本語の美しい響きを味わうことができます。

 日本は飛鳥時代から唐にならった国づくりを進め、書も「唐様」の漢文を使っていました。ところが、平安時代中期の894年に菅原道真の建議によって遣唐使が停止され、文化の和風化が進むと、日本独自の仮名が生まれました。以後、日本文は漢字仮名交じりが中心となり、表現が豊かで美的価値も高い「和様の書」が完成されていったのです。

 子供は気に入った言葉をよく記憶していて、大人になってからもふと思い出し、それが生きる力になったりするものです。そんないい言葉、いい話を子供にプレゼントしているのだと思うと、読み聞かせにも力が入ります。