親育て子育て 6
親が変われば子も変わる

APTF『真の家庭』176号[20136月]より)

ジャーナリスト 石田 香

子供に変わることを求めるのではなく、親の方から変わっていくようにしよう

子供の気持ちを第一に

 子供が不登校になってから学校に通えるようになるまでの経過をみると、子供に対する親の見方や感じ方の変化が子供に伝わっていることが分かります。

 でも「私が変わらなければ」と思い詰めるのではなく、子供の気持ちを第一にしながら、自分を見直していくという姿勢が大事です。そうすると、親も子も自然に変わり、率直に話し合えるようになります。

 家庭の教育力の低下やしつけの不足は、近年よく耳にすることです。幼児期には十分なスキンシップが必要だ、褒めて自信を持つようにしてあげよう、食事は手作りで愛情を込めてなど。でも、仕事をしていたり、介護が必要な家族がいたりすると、したいと思っていてもできないことがよくあります。

 子供が不登校になると、学校や児童相談所に相談するのが第一歩ですが、日ごろのできていないことを指摘され、叱られるかもしれないという不安から、相談に行けない人も多くいます。でも子供がこのままだと大変なことになるから、どんなことを言われても我慢して何とか解決したい、との思いで足を運ぶのです。

 解決に向かう親の変化を見ると、第一は、親の混乱と子供の混乱とを分けて考えられるようになることです。最初は、子供の不登校と、それによって混乱している親の課題とが混同されがちです。親が、自分の混乱の原因は子供の不登校だと思っている間は、冷静に分けて考えることができません。

 この子さえ学校へ行ってくれたら、世間から冷たい目で見られないのに、やりたい仕事に打ち込めるのに、父母や夫から責められることもないのに、などと感じている間は、自分を惨めにしているのはこの子だ、と子供を責める気持ちがあります。

 親にそんな気持ちがあると、子供はそれを敏感に感じ、自分はやっぱり駄目なんだ、自分はいないほうがいいんだ、親にはもう何も言いたくない、と思ってしまいます。希望的なことを考える力も余裕もなく、何も考えなくてすむ無意識の世界に入りたくて眠ろうとしたり、ゲームに没頭して現実から逃れようとしたりします。親は子供の欠点ばかり見えるので、わざとらしく褒めても子供は喜ばないばかりか、怒り出してしまいます。

 この時期の親は、カウンセラーが「お母さんよりも、子供のほうがもっと苦しんでいるんですよ」と言っても理解できず、「いや、私のほうがよほど苦しんでいる」と思っています。

子供が話しだすのを待つ

 そんな親でも、親身になって聞いてくれる人がいて、何回か自分の苦しさを打ち明けているうちに心にゆとりが出てきて、子供が置かれている状況が理解できるようになります。そうなると、自分が子供を一方的に責めてきたことに気づき、かわいそうになって、「ごめんね」と心から謝る気持ちになります。

 もっとも、子供は、急に親が謝りだしても、自分のことを本当に理解してくれたのか、まだ疑いが残っています。それを確かめるために怒ったり、暴力を振るったりすることもありますから、表面的な反応で判断しないことです。

 親は、自分なりの理解で子供が苦しかっただろうと思い、分かってあげられなかったことを謝るのではなく、子供の気持ちを素直に聞くことが大事です。

 例えば、「お母さんは今まで、あなたのことを何も知らなかったと思う。話してもいいと思えたら話してね」と語り掛けます。「きちんと話しなさい」などと、子供の気持ちを無視して、無理に聞き出そうとするのは禁物で、子供が自分から話しだすのを待つことです。

子供にとっていい親に

 子供が、親は見栄や世間体からではなく、本当に自分のことを心配してくれていると感じると、表情や態度、言葉で自分の思いを伝えるメッセージを発するようになります。

 そんなとき、親は子供に率直に聞くようにします。「何か最近、穏やかな顔になったけど、少し楽になったの?」「今話してもいい?」など、相手の気持ちに合わせる姿勢で接することです。分からないのに分かった振りをしないことも大切です。

 世間が言ういい親を演じようと身構えるのではなく、わが子にとっていい親になることです。例えば、子供が必要とするときに必要なことをしてあげられるなどです。

 もちろん、できないときにはできないと率直に言うようにします。すると、子供はこの親となら何でも相談しながらやっていこうという希望を持つようになるのです。

 相手がわが子であっても、人間同士として信頼し合えるような関係をつくることが、それぞれの問題を解決し、成長していく鍵になります。いわば人間関係の基本を、親子の間でお互いに学習しているということもできます。

 そう思うと、子供に変わるよう求めるより、親のほうから変わっていくことが、問題解決の王道だと言えるでしょう。