親育て子育て 2
いじめを早く発見するには

(APTF『真の家庭』172号[2013年2月]より)

ジャーナリスト 石田 香

日頃から子供と話しやすい関係をつくっておき、表情や持ち物、服装に気を付ける

見えにくいいじめ

 2011年9月、鹿児島県出水市の中学2年の女子生徒(当時13歳)が九州新幹線に飛び込み自殺するという痛ましい事件が起こりました。遺族が、いじめとの関連を調べてほしいと昨年9月に、鹿児島県警出水署に被害届を出したのですが、学校側は「自殺に結びつくいじめはなかった」としています。

 学校は自殺の6日後に全校生徒を対象にアンケートを実施したのですが、「自殺の原因とみられる出来事は確認できなかった」という結論になりました。学校側の姿勢に不信感を強めた遺族が独自に、友人や保護者に対しアンケートを行ったところ、「楽器を壊された」「Aさんが悪口を言っていた」「泣きながら歩いていた」など女子生徒が精神的に追い詰められていた様子が浮かび上がってきました。

 女子生徒は吹奏楽部に所属していて、吹奏楽部の同級生から、「ノートがなくなったと聞いた。お盆明けから練習に来なくなった」などの話も聞けました。

 そこで、遺族は市教育委員会にアンケートの開示を求めたのですが、市教委は応じていません。

 吹奏楽のように同調性が求められる部活では、それによって成長する良さもあるのですが、馴染めなかったりすると、目に見えないいじめが起こることがあります。とりわけ女子の間では、仲良くなるとトイレに行くのも一緒に手をつないだりするほど同調傾向が強い半面、関係が悪くなると、無視されたり、仲間外れにされたりなどのいじめになることがありがちです。

 しかし、どこからがいじめなのか、本人も相手も分かりにくいのが実態です。全体を見ている先生が気が付けばいいのですが、それにも個人差があります。

子供が話せるように

 学校は社会生活を訓練する場でもあるので、慣れない段階の子はストレスを溜めがちです。それを家庭で発散できれば、明るさや素直さを失わずにすむので、何よりも子供が安心できる家庭をつくること、ストレスを受け止める親になることが大切です。しかし、子供がいじめを受けているのに、親が気が付かないことがよくあります。

 いじめる子は周りに分からないようなやり方をします。服の上から腹部を叩いて、跡が見えないようにして、顔や手など見える部分に傷が残るようなことはしません。

 でも、子供同士はいじめをよく知っています。いじめはいけないことだと分かっているし、いじめられている子がかわいそうだとも思っています。しかし、自分がかかわると、今度は自分がいじめられるので、多くが傍観者になっているのです。

 いじめの解決とは、いじめがなくなり、いじめられた子が安心して学校に来られるようになって終わりではなく、周りで見ていた子も反省し、クラス全体がいじめを許さない雰囲気にならないと、本当の解決にはなりません。担任にとっては、そんなクラスづくりが課題なのですが、これにも個人差があります。また、担任が事務仕事に忙殺され、生徒の様子を丁寧に見られないという問題もあります。

 いじめられやすいのは、成績や体格、服装、動作などで、どこかみんなと違うところのある子です。いじめられる子が強くなると、逆にいじめるようになることもよくあります。いじめていた子がいじめられるようになると、いじめの恐怖を知っているので、人一倍、恐怖感を持つことがあります。

 子供は精神的に未熟で社会経験が少ないので、大人以上に残酷な面があります。子供同士で遊んだ経験が乏しいので、どこまでしたらどれだけ痛いか、つらいかが分からないので、限界を超えてしまうのです。少子化で兄弟の数が少なくなり、地域で異年齢の子と集団で遊ぶことも減りました。加えて格闘や戦争などのゲームの影響も大きいとされています。

 いじめを受けた子供は、大人が気付いてくれるようにと、いろいろなサインを出しています。それを受け止め、本気で対応できるのは家族しかいません。

 家族がいじめを発見するには、①急に表情が暗くなり、元気がなくなる ②学習意欲が失われ、成績が落ちる ③忘れ物をよくする ④学校に行きたがらなくなる ⑤服装に汚れが目立つ――そのどれか一つでもあればいじめを疑ったほうがいいでしょう。

 家庭では子供が話しやすい環境づくりを心掛け、子供がつらい出来事をありのまま話すようになれば、事実を確認した上で、まずは担任に相談してみることです。