2026.09.18 22:00

幸福学と宗教的な生き方 10
寄付や献金は人を幸福にする
魚谷 俊輔
本シリーズでは、日本における幸福学の第一人者である前野隆司(まえの・たかし)氏が著書『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書、2013年)で述べていることを理論的な枠組みとして用いています。
このシリーズでは、「人が幸福になるにはどうすればよいのか?」という問いを学問的に掘り下げ、それが宗教的な生き方とどのように関わっているのかを探求している。
前回は、幸福学が提示する「地位財・非地位財」という視点に基づき、宗教を信じる人がなぜ高額の献金をするのかについて論じた。
その結論は、宗教の役割は献金やお布施を奨励することによって、「地位財」に対する執着を捨てさせ、「非地位財」によって得られる幸福に焦点を移し、永続的な幸福をもたらすものであるというものであった。
今回は同じ論点を、前野隆司・菅原育子共著『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春出版社、2023年)に基づいてさらに深掘りしたい。
前野氏は、この本の中で、お金の使い方と幸福度の関係を欧米の実証研究に基づき報告している。(『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』、95~99ページ)
前野氏は、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の社会心理学者エリザベス・ダン教授らが2008年にサイエンス誌に発表した論文を挙げ、お金を自分のためだけに使うより、他人のために使った方が幸福度が高まることを強調している。
この論文によれば、被験者に現金を渡し「自分のために使う」指示をした群と、「慈善事業など他人のために使う」指示をした群を比較した結果、後者の幸福度が有意に上昇したという。
具体的な例を紹介しよう。
「アメリカ人630人を対象にした実験では、お金を自分のために使ったときと、他人のために使ったときの幸福度をそれぞれ5段階で評価してもらったところ、他人のために使ったときのほうが、幸福度が高いという結果が出ました」(同、96ページ)
続いて前野氏は、会社の従業員のボーナスの使い道を調査した実験を紹介し、「社会貢献や慈善事業など、社会のためにお金を使う人は、金銭的豊かさにかかわらず、自分自身のために使う人よりも幸福度が高い」(同、97ページ)と結論している。
ただ残念なことに、日本ではこうした寄付文化が定着しておらず、その理由は宗教に関係しているのではないかと前野氏は指摘する。
「キリスト教では、『金持ちが天国に入るのはラクダが針の穴を通るより難しい』と聖書に書かれています。これは最近では、金持ちになってはいけないということではなく、お金を儲けても執着することなく周囲に分け与えようという意味であろうと解釈されています」(同、99ページ)
家庭連合の信仰生活においても、自分の献金が世界の開発途上国における宣教の支援や、貧しい人々を助けるための人道支援プロジェクトなどに使われていることを信徒たちが理解しているため、献金によって幸福度が増していたのだと理解できる。